《サッリズモ》が成熟すれば…
チェルシーの場合、両サイドバックはレギュラーと控えの間にレベル格差がある。サッリのスタイルに適したセンターバックはダビド・ルイスただ1人だ。セスク・ファブレガスとロス・バークリーは攻守の切り替えが鈍く、4バックではヴィクター・モーゼスの居場所がない。そして最大の難点は、ジョルジーニョの代役がいないことだ。
サッリとともにナポリからやって来たMFは、まさしく《ピッチ上の監督》だ。プレミアリーグ最多のパス本数(前述)だけではなく、各選手のポジショニングにも気を配り、好調チェルシーの原動力となっている。しかし、ジョルジーニョを欠いた中盤は説得力に欠ける。セスクは運動量が目に見えて落ちてきた。エンゴロ・カンテとマテオ・コヴァチッチは、ジョルジーニョほどに気が利かない。
カンテを2人のセンターバックの前に配置し、中盤インサイドにセスクとコヴァチッチを並べるプランも考えられるが、この布陣では相手ボールになった際の備えに疑問が生じる。やはり、今季のチェルシーはジョルジーニョありき──だ。彼に不測の事態が生じたとき、チームのバランスが著しく損なわれる危険は排除できそうもない。
それでも、最低目標だけは達成できる公算が大きい。サッリが「シティとリバプールに追いつくためには、まだまだ時間が必要だ」と語ったように、2強の牙城を崩すまでには至らないかもしれない。しかし、アーセナルは発展途上で、ユナイテッドがドツボにはまったいま、トップ4への返り咲きは比較的にイージーなミッションだ。そして《サッリズモ》(サッリの哲学を表現する新語。彼の母国イタリアでは、百科事典『トレッカーニ』に収録されている)が熟成する2シーズン目、3シーズン目には、チャンピオンズリーグも視野に入るに違いない。
あの栄光ふたたび──。チェルシーは、復活の道を着実に歩みはじめた。
(文:粕谷秀樹)
【了】