負傷者復帰後にチャンスをどう生かすか
もう1つの理由は攻撃ルートが偏ってしまうことにある。3-4-2-1が採用されたジローナ戦であれば左のグアルダードが守備のリスクを管理しながらバランスをとる、右のカナレスが高い位置を取って攻撃を加速させる、それぞれの役割がはっきりしていた。
するとカナレスは左利きのため、縦方向あるいは右方向へのパスが多くなる。パス精度そのももは高く、質の高いプレーを連発するが、どうしても乾のいる左方向への大きな展開などは少なくなる。最終ラインからグアルダードがボールを引き出す、あるいは直接持ち上がることでカナレスを経由し、右ウィングバックのフランシスか右シャドーのブデブズが相手守備陣にアタックをかける形がメインだ。
左サイドはグアルダードがバランスをとりながらパスを散らしていくが、ウィングバックのジュニオールが突破を仕掛けることはあっても、距離の離れた乾に直接いい形でボールをが入る場面は少ない。ジローナ戦もブデブズに比べて乾のボールタッチ回数は見た目でわかるほどに少なかった。
もちろん乾もボールに触るため右サイドに流れるなど工夫はするが、やはりスペースが少なく単独突破を仕掛けるのは難しい。“乾システム”の中でも、エイバル時代ほどの輝きを放てていないのが現状だ。
今後ウィリアム・カルバーリョが復帰すれば、キケ・セティエン監督は昨季から用いてきた3-1-4-2を再度導入する可能性も高い。そうなればグアルダードとカナレスが守備のタスクをある程度アンカーに預けて、より高い位置でプレーできる。攻撃ルートの偏りも解消に向かうだろう。
先に述べた通り、グアルダードとカナレスは今のベティスにおいて絶対的な存在で、負傷などがない限り立場が大きく変わることはないと見られる。そうなれば乾は3-1-4-2の2トップの一角を争うことになるか。
ロレンを軸にセルヒオ・レオンやサナブリア、現在3-4-2-1でシャドーに入っているブデブズ、あるいは大ベテランのホアキン・サンチェスも健在ぶりを示している。2つのポジションに対してこれだけ豊富な人材がいる中で、定位置を勝ち取るには自分の強みを積極的にアピールしていくしかない。
まだまだ本領発揮とは言い難い状況だが、代表ウィークも挟みながら過密日程が続く10月に乾はどのようなパフォーマンスを見せられるか。キケ・セティエン監督が乾を起用することでシステムにてを加えているのは、信頼されている証。だが、その期待に応えきれなければ、今後出場時間が減っていく可能性もある。今が30歳のサムライにとって正念場だ。
(文:舩木渉)
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