「イニエスタのパス」が神戸の基本になるか
人を動かすボールポゼッションとは何か。「イニエスタはすごく(相手を)引きつけてからパスを出してくれるので、僕が余裕を持っている状態で出してくれる」と郷家は言うが、まさにこれだ。相手のプレッシャーをぎりぎりまで引きつけてから、スペースに入り込んだ味方にパスを出す。もらった選手は、また自分へのプレッシャーをぎりぎりまで引きつけて、別のスペースと選手にパスを蹴る。
パスとパスの間にはボールを運ぶドリブルなども織り交ぜながら、繰り返し相手を動かして「ズレ」を作り続けることが、ポゼッションサッカーでゴールを奪うために必要な作業だ。
センターバックの大崎も「ボールを動かすだけだと人も動かない。ボールを持っている選手はすぐはたくんじゃなくて、自信を持って、ちょっとドリブルするなり、相手を引きつけてからパスを出すだったり、ただただパスをポンポン回しているだけじゃ相手も動かない。もう少し選手1人ひとりが自信を持ってボールを保持しなきゃいけない」と語る。徳島ヴォルティスで、リージョ新監督と考え方の近いリカルド・ロドリゲス監督に指導を受けた急成長中のDFは、最終ラインからでも効果的にボールを運ぶための術を理解している。
今回、浦和戦で神戸はアンカー藤田の前にいるポドルスキと郷家の2人をできるだけ高い位置でスペースに入り込ませ、相手陣内の深い位置で「ズレ」を生み出す、そして迫力十分のツインタワーがマークを引きつけてポドルスキの打開力を生かすというコンセプトを、3-5-2で表現したかったのではないだろうか。
だが、監督交代から1週間しかない中で、新しいチャレンジを全て完璧にこなすのは難しい。今週か、来週か、近いうちにビザの問題が解決したリージョ監督が練習も指導できるようになるはず。そこで改めて、ペップ・グアルディオラも一目置くという戦術理論の一端が選手たちに授けられるだろう。
郷家も「ファンマ監督のサッカー観をみんなが理解しないといいサッカーは出来ないと思うし、勝つサッカーは出来ない」と気を引き締めている。
もちろん2シーズン前のセビージャと今の神戸は状況が全く違う。神戸にはセビージャで戦術的な鍵を握ったステベン・エンゾンジもビセンテ・イボーラも、ガブリエル・メルカードも、パブロ・サラビアもいない。すでに揃っている選手の特徴もクオリティも違う中で、リージョ新監督が自らの哲学をどのような形でチームに落とし込んでいくか、ますます楽しみになってきた。
(取材・文:舩木渉)
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