「身体が疲れるより、頭が疲れる」(郷家)
するとセビージャは後半開始から3バックの一角で、のちにバルセロナへと旅立つことになるクレマン・ラングレをさっさと下げ、ステバン・ヨヴェティッチを投入。3-4-3から4-4-2にシステムを変え、アトレティコの布陣との噛み合わせを修正した。結局試合には1-3で敗れるのだが、選手交代も含めてセビージャの戦術的な引き出しの多さは驚くべきものだった。
これをサンパオリの裏で緻密に調整していたのが、これから神戸を率いることになるリージョだった。選手たちにピッチ全体をカバーする強力なプレッシングや、ハードワークを求める姿勢を植えつけるサンパオリと、複数のシステム、複数のポジションに対応できる戦術的柔軟性を身につけさせるリージョというコンビだったわけである。
今回、浦和戦で暫定的に指揮を執った林監督は、ベンチで頻繁にアシスタントコーチのマルコス・ビベス氏に助言を求める姿が見られた。ビベス氏はイニエスタが日本に連れてきたスタッフの1人で、カタルーニャ州サッカー協会のテクニカルディレクターという要職を歴任した実績を持つ。
この2人はともにリージョ体制でもスタッフ入りすることが発表されており、吉田前監督から引き継いだチームに、新たな挑戦につなげるための要素を注入した。ポドルスキは「新しいものに適応する時間がなかった」と悔やんだが、今後取り組んでいかなければいけないものはもっとたくさんある。
「身体が疲れるより、頭を使って頭が疲れる。止まってプレーする、相手が来てからボールを出す。そういうのを意識していました」
郷家は新たなスタイルにおける「意識」の変化を、すでに実感していた。いくらボール保持率を上げても、ゴールを奪えなければ勝てない。ゴールを決めるためには、チャンスを作らなければいけないし、できるだけフリーでシュートを打てるチャンスを作るには、相手の陣形を崩さなければならない。
ゴールから逆算してプレーを判断する際に、ただパスを横に回しているだけでは何も意味がない。ボールを動かすことで人も動かし、できるだけ相手の意図した陣形を崩した状態を作ることが、ゴールへ近づくための鍵になる。