公に初めて明かされた指揮官への「不満」
すると伊藤は「監督はどこまで言っていたんですか?」と返す。記者は「監督はサッカーの形として勝つためにベストのことをやっている。でもこれ(敗因)は選手のメンタリティだと」と解説する。そして30歳のストライカーは堰を切ったように語り始めた。
「選手も布陣や起用に言いたいことはあるけど、それを我慢してやっているんだから、そこは監督も自制してくれないと。熱くなるのはわかる。選手しかピッチではできないから、それは全然わかるんだけど、自分に責任はないみたいな言われ方をされると…」
確かにこれまでもポステコグルー監督の一方的なアプローチに対して選手から不満がなかったわけではなかったが、これだけオープンな場でその存在が明かされたのは初めてだった。
伊藤は「(監督と選手の)擦り合わせというところでは、柔軟性はない。頑なに『これやりなさい』『あれやりなさい』と。試合の中で、結局、負けたら『試合の中で選手がもっとこうやればよかった』みたいなことは言ってくるけど、結局『じゃあ、それを指示すればいいじゃん』となってくる」とも述べる。ピッチ上の選手の判断をどこまで許容するかは、シーズン開幕当初から微妙なラインを行ったり来たりしていて、不安定なところがあるのは確かだ。
ただ、人間は皆違った考えを持っているもの。それゆえに選手が監督に1から100まで同意することの方が少ないだろう。むしろ何かしらの不満を抱えていない方がおかしいくらいだ。Jリーガーとなれば全国から集まったサッカーの上手い人間だけで構成される世界に生き、試合に起用されなければ「なんで使わないんだ」、戦術が合わなければ「なんで俺に合わないやり方なんだ」などと思っても不思議ではない。
順位表の上でも困難な状況であることが明らかな中、試合直後で興奮状態の選手がやや感情的になってしまうことも理解できる。不満や不信感が頭の中を支配していれば、監督の指示に応えることなく、試合でも使われていないだろう。先の監督記者会見を引用した質問をした記者は、談話の取り上げられ方を懸念する伊藤に対し「書いても誰も得しないよ」と理解を示していたが、別の媒体の記者はこの囲み取材での一連の質疑をもとに「マリノスで内紛か?」という主旨の記事を書いた。監督・選手、双方に取材した私個人としては「内紛」と断罪すべきではないと思う。