A代表へステップアップするために。森保監督が求めること
グループリーグ初戦の前日練習では照明の明るさが足りず、ピッチにも凹凸がある状態で対人プレーを含むメニューを取りやめなければならなかった。ある日は練習場まで壮絶な渋滞をかきわけて片道1時間半ほどかけて向かわなければならないこともあった。会場の厚意で借りたグラウンドも、お世辞にもいい環境とは言えず、戦術的な要素を確認したのはわずか15分ほどだった。
これほどタフな環境でも、勝つためにできることはすべてやるべきだ。そして、中1日で十分な練習時間を取れずとも、積極的なコミュニケーションではっきりと改善を示したグループリーグ第2戦のパキスタン戦のような前例もある。
決勝トーナメントでは「負けて残念だけど、次に向けて改善します」は許されない。負けたらそこで終わり。「世界で戦うために、アジアでは常にベスト4に」という森保監督の最低限の目標も達成できない。
そして、森保監督が東京五輪を目指すU-21代表と、誰しもが憧れるA代表の「兼任監督」になったことで開けたステップアップの道も、十分な結果がなければすぐに閉じてしまう。9月の親善試合は難しいにしても、それ以降でA代表にチャレンジさせる資格のある選手を、指揮官はアジア大会の中で見極めているはずだ。
そこで今、選手たちに求められるのは、アジアのタフな環境においても思考の柔軟性を失わず、状況に応じた判断を下し、ピッチ上で勝つためのプレーとして表現できる能力。森保監督も「(解決策を)与えられるだけではなくて、ピッチ内で修正能力、問題解決能力を養っていってもらえるように働きかけていく」と語っていたが、現状で自発的にそれらの能力を十分に示せている選手はいない。
決勝トーナメントの最初の相手はマレーシアに決まった。グループリーグで今大会の優勝候補筆頭と言われていた韓国を下した勢いのあるチームである。メンバーを大幅に入れ替えたグループリーグ最終戦ではバーレーンに2-3で敗れ、本当の実力を測りづらい側面もあるが、そこがまさに若き日本代表が越えるべき壁になるだろう。
ピッチに立って蓋を開けて見なければ、どんな戦いをしてくるかわからないチーム。ベトナムのように前線からハイプレスで真っ向勝負を挑んでくるか、あるいは韓国戦のようにカウンターパンチを狙って耐える戦いを選んでくるか。戦況を即座に読み取り、チーム全体が正しい判断を下していけるかどうかが、決勝トーナメントで勝ち上がり、競争を勝ち抜いていけるかどうかの鍵になる。アジアは決して甘くない。
(取材・文:舩木渉【インドネシア】)
【了】