自ら描いた予想がさらに覆される感覚
昨シーズンのJ1最少失点の原動力になった34歳のベテラン、大井が守備の的を絞れず、後手を踏むことをイニエスタは見越していた。大井の背後にはブラジル人の点取り屋ウェリントンが、さらにファーサイドにはFC岐阜から移籍後で初先発を果たしたFW古橋亨梧がいたからだ。
一方で味方は右サイドバックの櫻内渚しかいない。ターンするのか、あるいはワンタッチでパスを出すのか。一瞬だけ迷った大井を翻弄するように、ポドルスキの高速パスを右足に軽く当てたイニエスタはそのまま時計回りにターン。吸いつくようにコースを変えたボールは、その前方に転がった。
「正直、バランスを崩すかなと思ったんですけど。そうなることなく、すぐに自分のプレーに移っていったので。やっぱりすごいなと」
トラップから瞬く間に反転し、さらに大井が必死に伸ばした左足が届かない場所にボールをコントロールして前へ抜け出していく。まるで神業のようなイニエスタの一連のプレーを目の前で見届けた古橋は、自分が描いた予想がさらに、しかもいい意味で覆されたと苦笑いしながら明かしてくれた。
「相手のキーパーが飛び出してきた時点で、僕もフリーで横にいたのでパスが来るかなと思ったんですけど。あの場面でさらに抜きに行くところが、世界との差なのかなと思いました」
立ちはだかったジュビロの守護神、ポーランド出身のクシシュトフ・カミンスキーも細かいキックフェイントを入れながらかわす。トラップから無人のゴールにボールが突き刺さるまでのわずか3秒間に、前売り段階でチケットが完売したノエビアスタジアム神戸にいた全員が魅せられた。
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