ルーキーの思考回路はよりスケールアップ
日本中がその一挙手一投足に注目したデビュー戦を、0‐3の完敗で終えたベルマーレ戦後。ホームのノエビアスタジアム神戸内のロッカールームで、青森山田高校から加入したルーキー、MF郷家友太は勇気を振り絞って、通訳とともに近くにいたイニエスタに問いかけた。
「右と左、どちらが好きなんですか」
ベルマーレ戦の59分からイニエスタが投入されたとき、中盤の形は正三角形だった。6分後にピッチへ入った郷家も、まずは藤田とダブルボランチを形成した。しかし、直後に3点目を奪われ、形勢がますます不利になった状況で、イニエスタは前へ出るようにと郷家へ手招きしている。
藤田をアンカーにすえた逆三角形型に中盤を変え、インサイドハーフで並ぶうえで、左と右のどちらがプレーしやすいのか。ベルマーレ戦では試行錯誤しながらプレーしただけに、今後の戦いを確かなものにするためにも、イニエスタ自身に確かめたいという思いに駆られた。
「そうしたら『左のほうが好き』だと話してくれました。僕もまだまだ知らない部分があるので、イニエスタに合わせてプレーできるように、どんどん理解していきたい」
イニエスタが初先発した7月28日の柏レイソル戦では、郷家は3トップの左で先発し、後半アディショナルタイムまでプレーした。スペインへ残してきた家族を迎えにいくために、レイソル戦後に緊急帰国したイニエスタは8月1日のセレッソ大阪戦、同5日のFC東京戦を欠場した。
再来日したのは5日の夜。ちょっとしたブランクは生じたものの、一度共有できたイメージが損なわれることはない。復帰戦となった11日のジュビロ磐田戦。キックオフからヴィッセルの中盤は藤田をアンカーにすえた逆三角形型となり、前方にイニエスタと郷家が左右対で並んだ。
しかも右ウイングには、左足甲の骨折から復帰したキャプテン、元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキが約3ヵ月ぶりにピッチへ帰還していた。ともにワールドカップを制したビッグネームたちとの初共演。高校日本一になった郷家の思考回路はよりスケールアップして、2人の動きをシンクロさせる。