CBにも挑戦。チームに欠かせない存在だったが…
練習場に行くと、この3週間ほどは以前に比べて少し静かだと感じる。たった1人がいなくなるだけでこうも変わるのか、と。心にぽっかり大きな穴が空いたというのは言い過ぎかもしれないが、確実に何かが欠けているような感覚がある。
金井貢史の横浜F・マリノス退団は、まさに寝耳に水だった。7月25日に発表された名古屋グランパスへの完全移籍。それまで愛着あるクラブを去るような素振りは全く見せていなかったし、移籍に向けた交渉が進んでいたであろう時期にも、話を聞けばチームや自分自身を鼓舞するように明るく振る舞い、時に厳しい言葉も残していた。
「センターバックだろうが、やるべきことに全力を尽くす」
「背が低いことは言い訳にならない。低いなりのやり方もある」
「(中澤)佑二さんと遜色なくやらなきゃいけない」
今季、いつも口癖のように話していた言葉だ。チーム事情で本職ではないセンターバックでの起用が増え、難しい役割をこなそうと懸命に努力していた。ただ、左右のサイドバックでもセンターバックでも2番手以下の評価だったのは事実。マリノスを退団するまで、今季はYBCルヴァンカップこそ8試合に出場していたものの、リーグ戦は6試合出場にとどまっていた。
とはいえ頭数の揃わないセンターバックの穴を埋め、時に本職のサイドバックでも安定感抜群のプレーを見せる28歳は、戦力的にも戦術的にも重要な役割を果たしていた。
「試合に出るためにどのポジションでも全力を尽くして、チームのために頑張っていけば自分のためにもなるし、自分のために頑張ればチームのためにもなる」
金井はある時そう言った。まさに「全力」を体現し続けたことが生んだ、彼の存在価値こそが失われた宝物だったのかもしれない。同じくマリノスの下部組織出身で、若い頃から金井のことをよく知る飯倉大樹は「昔と比べたら、家族ができて、いろいろなチームに移籍して、あいつなりに大人になってきた。若い頃よりも自分の存在意義をすごく理解して、ここ数年マリノスにいろいろなものを還元していたから、すごく成長したなと思っていた」と語った。