宮本監督が見せたサムアップ。表情には笑顔も
アデミウソンが決めた劇的な決勝点の場面を振り返れば、自陣から仕掛けたカウンターから高江が右サイドへ飛び出し、フォローしてきた右サイドバックの三浦弦太から戻ってきたボールを、バイタルエリアへ攻め上がってきた高へ預けた流れから生まれていた。
「あの瞬間は絶対に高江からパスが来ると思っていた。左足で止めて、最初はミドルシュートを考えましたけど、相手の2枚のスライドもちょっと速かったので。相手の間を空けるためにちょっとクッションを置いたら、アデ(アデミウソン)のところでギャップができた。あとはアデのおかげです」
劇的ゴールにつながるスルーパスを笑顔で振り返った高は、宮本監督から守備力を高く評価される一方で、攻撃に関わる部分をもっと伸ばせと課題を指摘されていた。86分に追いつかれ、意気消沈しかねない時間帯で高江と高が成長した部分を発揮し、値千金の決勝点をお膳立てした。
最後はアデミウソンの個人技がさく裂したが、そこに至る過程が冷静沈着な指揮官を興奮させないはずがない。ゴールが決まった瞬間はピッチへ繰り出してガッツポーズを繰り返し、駆け寄ってきた高を抱きしめた宮本監督は手にした初勝利をこう表現した。
「同点に追いつかれても、選手たちが前回までの試合には見られなかった『もう一度立ち向かう』といところを見せてくれた。嬉しかったですね。全員が勝ちたいと思ってプレーしていて、自分自身も勝ちたいという思いでしたけど、まさかああいうゴールが決まるとは思っていなかったので」
体勢を再び整えられる時間を迎えられるまで残り2試合。当然ながら他チームも目の色を変え、まさにひとつも負けられない状況が続くなかで、残留争いを制するための羅針盤にも映る選手たちの高ぶる気持ちによほど大きな手応えを感じたのか。
公式会見を終えて退室しようとした瞬間だった。おもむろに立ち止まった宮本監督は自らメディアに対して拍手を求め、右手を高々とあげてサムアップ。めったに見せないポーズを見せたその表情には、ちょっとだけ笑顔が浮かんでいた。
(取材・文:藤江直人)
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