ファン・ウィジョの代役は一美和成を抜擢
FC東京戦後の取材エリアで、指揮官が「仙台戦の後が」とあえて言及した理由がここにある。前任者の負の遺産を、プラス思考で好転させる。J1戦線が胸突き八丁の終盤戦に突入する前で時間を取れる、最初で最後のチャンスとなるかもしれないだけに、現状の崩れたリズムを修正し、自身のイズムをさらに徹底させる青写真を宮本監督は思い描いている。
「ファーストディフェンスの強さとか、守備の連動性といったものは、自分が求めているものにもっと近づけてもらいたいという思いがあるので。フィジカルの部分やサッカーの質といったところも、スムーズに上げていく必要がありますよね。もう少し試合間隔が空いてくると、そういったトレーニングも上手くできると思うので」
今後を見すえる宮本監督に、現状はどうなのかと聞いてみた。改革の段階はどれくらいなのかと。返ってきた数字が、理想と現実のはざ間でもがき、苦しんでいる姿を象徴していた。
「10あれば1か2くらいじゃないですかね。まだまだ全然ですね」
残留を勝ち取るためには、シーズンが終わったころには5に到達させたいと思い描く。もっとも、コンサドーレ戦とベガルタ戦で勝ち点を積み上げられなければ、絵に描いた餅に終わりかねない。限られた時間のなかでベストの準備を施しながら、いい守備があって初めていい攻撃が生まれる、というサッカーのセオリーにも通じる自身のイズムを徹底させる。
初采配を振るったアントラーズ戦以降で高卒2年目の高宇洋(市立船橋)と高江麗央(東福岡)のボランチコンビ、同じく3年目のFW一美和成(大津)と、U-23チームで手塩にかけて育ててきた「チルドレン」を抜擢した理由も、チーム内に新風を吹かせながら守備への意識を高める狙いがあった。
特にFC東京戦では、インドネシア・ジャカルタで開催される第18回アジア競技大会に臨む韓国代表にオーバーエイジ枠で招集された関係で、チーム内で断トツとなる9ゴールをあげているエースストライカー、ファン・ウィジョを欠いて戦わなければならなかった。
13日にはJ1通算88ゴールをマークしている31歳のベテラン、渡邉千真がヴィッセル神戸から完全移籍で加入することが発表された。しかし、FC東京戦を前にした段階でフォワード陣の補強はなし。既存の戦力を見渡せば、J1で通算27ゴールをあげている身長192cmの長身・長沢駿(現ヴィッセル神戸)がウィジョの代役として先発すると見られていた。しかし、興奮と緊張が交錯するであろうJ1デビュー戦のピッチへ、宮本監督は迷うことなく一美を送り出した。
「J3の試合やトップチームの紅白戦を春先から見ていて、一美はJ1の選手相手に対しても十分にできるのでは、と思っていました。ウィジョが抜けたなかで、FC東京のセンターバック2人を相手にしたときにフィジカルが強く、ボールを収めることができて、ファーストディフェンダーとしてチームのために献身的に働いてくれる姿勢を求めて、チャンスをつかんでほしいという思いで送り出しました」