メルボルン・Vと調整していた「無理難題」
「え、ちょっと、何言ってるか分かんない」
助手席でスマートフォンをいじっていた家族に「本田、カンボジア代表の監督に就任だってよ」と告げられた時の混じりけなしの素のリアクションだ。車中で、「寝耳に水」のニュースを知ったのは、12日の昼過ぎ。それから次々に入る情報で事の成り行きと全体像を把握して冷静になってから、はたと膝を打った。
「あ、これが、本田が言ってた『無理難題』だ」
ここまでの本田圭佑の移籍に伴う様々なドラマ、いうなれば“本田劇場”を少し振り返っておこう。
8月2日のバハマからのインタビュー生中継。その中で「オーストラリアのクラブとの交渉」が進んでいる事実を認めた本田は、同時に「クラブに『無理難題』を聞いてもらっている」とも発言。交渉は進んでいるものの、サインまでには少し時間がかかることをほのめかした。
この一言が、破談の可能性を残したうえで予防線を張ったようにも聞こえて、少しヒヤリとさせられた。その時からというものの、ずっと本田の言うところの「無理難題」の内容が気になって仕方なかった。
8月5日の朝、起床直後に「重大発表のお知らせ」という件名のメルボルン・ビクトリーからのメールを読んだ。現地時間午前6時前に送られたメールは、簡潔に「今日の午前10時に重大発表がある」との必要最小限の情報を伝える。そこに、「Keisuke Honda」の名前はなくとも、このタイミングでの「重大発表」ならば、ただ1つ。「本田圭佑、入団決定」、それしかなかった。その時は、「やっと、決まった」という安堵感ともに、「結局『無理難題』とは何だったのか」という疑問が頭をもたげてきた。