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武藤嘉紀に14億円。「買い渋り」のオーナーが投資した意味とは? 古豪復権へ求められるもの

text by 山中忍 photo by Getty Images

ニューカッスルのファンが待っているのは…

武藤嘉紀
ラファエル・ベニテス監督(左)も武藤嘉紀(右)への期待を語った【写真:Getty Images】

 だが、より積極的な戦いを仕掛けるべき対戦カードでは、虎視眈々と最終ラインの裏を狙い、コンスタントかつクレバーな動きで相手守備網を間延びさせることのできる武藤の持ち味が生きる。小回りの利くFWには移籍5年目のアジョセ・ペレスもいるが、ベニテス体制下ではトップ下的な起用が増えている。その指揮官から「万能性」も買われている武藤には、2列目アウトサイドでの起用もあるだろう。ウィンガーの頭数に不足はないが、相手ゴールへの脅威を強めたい場合には、融通の利くストライカーである武藤に声が掛かると思われる。

 つまり、求められるものは「ゴール」。指揮官は、獲得に際して「ハードワーク」や「献身性」といった武藤のクオリティに触れていたが、自らの得点による貢献云々を口にしなかった背景には、余計なプレッシャーをかけないようにとの配慮があったのかもしれない。

 “ラファルーション”こと、ベニテスによる古豪革命を見守るファンも、何よりゴールを望んでいるはずだ。ニューカッスルの人々は、2007年からの現オーナー政権下で、FW補強失敗例を数多く目にしてきた。逆に、在籍1年半でリーグ戦29得点を記録したデンバ・バが、成功と言っても良い唯一の例だ。

 得点なくして勝利はあり得ないのだから当然だが、強豪と呼べた当時のニューカッスルには頼れるストライカーがいた。3度のFAカップ優勝を果たした1950年代の主砲は、往年の名FWジャッキー・ミルバーン。プレミアリーグで優勝を争った1990年代後半には、アラン・シアラーがレス・ファーディナンドの後を継いだ。ニューカッスル市民はゴールに飢えている。こぼれ球を押し込むような泥臭い得点でも、彼らはネットを揺らす芸術を理解してくれる。

 相手ゴール前での武藤は貪欲すぎるぐらいでも良いだろう。もう10年以上前になるが、ニューカッスル時代のマイケル・オーウェンを訪ねた際、クラブハウスに居合わせたシアラーに「ゴール量産の秘訣は?」と尋ねてみると、当時の絶対的エースは「とにかく打たないとな」と言った。

 笑顔で冗談まじりの一言ではあったが、同時に永遠の真理でもある。由緒ある白黒の縦縞ユニフォームを着ることになった日本人ストライカーも、ひたすらゴールあるのみ。「ニューカッスルの歴史に名を残したい」と語る本人にとっても、それが大きな個人目標達成への近道でもある。

(文:山中忍【イングランド】)

【了】

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