「自分たちは二兎を追っている」(喜田)
ボール奪取の位置の傾向からも読み取れることは多い。勝った試合では「ディフェンシブサード」で45.3%と際立った数字が出ている。これは相手にある程度押し込まれた状態でもしっかりと耐えてカウンターに移れるポテンシャルを示しているだろう。
ただ、「アタッキングサード」でのボールロストが50%以上の負けた試合で、ボール奪取の位置は全エリア30%台と大きな差は出ていない。前線でボールを奪われることが多くても、そこで奪い返しきれない、そしてゴール前まで運ばれてしまい、最後まで奪いきれずにピンチを迎えるという傾向が見えてくる。
飯倉の「思っているよりボールは動かして、自分たちも動いて、結局最後のところで自分たちのパワーを使えていないというか、相手にパワーの優位性があるイメージ。守備もみんな裏に走られて、こっちも走ってきたけど、最後は力なく、うちらしくないというか。昔だったらやられていないような部分も簡単にやられて失点というのは結構ある」という指摘は的を射ているだろう。そして「失点すると少し(気持ちが)切れてしまうという部分の修正はかなり必要」と強調する。
誰もが大量失点が続く現状を重く受け止めている。喜田も「ボール回して1点ではないので、そこを履き違えてはいけない。点を取るためのボール回しで、ポゼッションゲームでも何でもない」と口にする。
そのうえで「うちの良さを消す相手もこれから増えてくると思う。対策をして『ここを防げば簡単だよね、マリノス』となるのではなく、いろいろな引き出しを持てるようにすべきだし、していかないと、絶対に勝ち残っていけない。そこは1つの方法だけではなく、いろいろな手を使って、言い方を変えれば、どんな手を使ってでも勝ちにいかないといけない」と語気を強めた。
喜田は「自分たちは二兎を追っている」という表現でマリノスのサッカーを信じ続ける覚悟を示した。「二兎」とは「試合を圧倒的に支配」して「試合に勝つ」というポステコグルー監督のスタイルそのもの。それはチームの全員が同じ方向を見て、同じ覚悟を決めなければ成し遂げられない。「自分たちのサッカー」をしている試合で結果が出ていない現実から目を背けることもできない。
幸か不幸か、次の試合はすぐにやってくる。5日の川崎Fとの大一番。前半戦では大いに苦しめられた昨年王者相手に、本来目指すべき「自分たちのサッカー」をどこまで表現し、明確な結果につなげられるか。
ボール支配率を上げて守備機会を減らし、なおかつ効果的なプレッシングで即時奪回と二次攻撃に繋げる理想の形でゴールを奪うための具体的な方策を、指揮官が示すべき時だ。チームが目指す方向性を変えるべきではないが、微調整を加える余地はある。このまま課題を放り出したままにしてしまえば、同じような失点シーンが続き、勝利を取り戻せず悪い流れを断ち切れなくなってしまう。
(取材・文:舩木渉、データ提供:Wyscout)
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