運命的な絆で結ばれた2人
9年も前から、2人は運命的な絆で結ばれていたのかもしれない。2009年7月18日。等々力陸上競技場のピッチとスタンドとで、ガンバ大阪の宮本恒靖新監督とその秘蔵っ子、高宇洋(こう・たかひろ)は同じ感動と興奮を共有していた。
ガンバからオーストリアのレッドブル・ザルツブルクをへて、2009シーズンからヴィッセル神戸でプレーしていた宮本はボランチとして、敵地で行われた川崎フロンターレとのJ1第18節で先発フル出場。1点のビハインドで迎えた69分に、一世一代の離れ業を演じてみせた。
左サイドから放たれたライナー性のクロスを、ペナルティーアーク付近で巧みに胸トラップ。浮いたボールに対して相手ゴールに背を向けた体勢から華麗に宙を舞い、右足で豪快なバイシクルシュートを一閃する。ボールは緩やかな軌道を描きながら、ゴールの左隅へ吸い込まれていった。
ヴィッセルをドローに導いた移籍後初ゴールは同時に、17年間に及んだプロ人生で決めた最後のゴールになった。そして、スタンドでは川崎フロンターレU-12に加入して2年目を迎えていた、川崎市立中原小学校5年生の高が、相手チームのキャプテンが決めたスーパーゴールに目を輝かせていた。
センターバックも含めて守備的なポジションを務めてきた宮本は、J1で通算8ゴールしか決めていない。そのひとつ、それも最後のゴールを目の当たりにしただけでも稀有な存在となる高のもとへ、ガンバの新監督に就任したばかりの宮本から電話がかかってきたのは7月24日だった。
ルーキーイヤーに続いて、高はガンバがU-23チームを参戦させているJ3を主戦場としてきた。そして、8月中旬までJ3のスケジュールが空く間でオフを与えられ、神奈川・川崎市内の実家へ帰省していた。宮本監督から告げられた要件は「すぐに大阪へ戻って来い」だった。