F・トーレスと金崎の役割を整理しなければ…
チーム全体のベクトルがF・トーレスに向いている以上、ボールはそこに集まる。となれば、こぼれ球やパスも近くに落ちることが多くなるが、金崎は「動きすぎ」ているので、それを拾える位置にはいない。大抵はサイドか、守備から攻撃に戻りきれないままミドルゾーンにいるので、ゴール前までボールを運んでもペナルティエリア内でフィニッシュに人数をかけられないという問題も起きていた。
もちろん、まだ鳥栖に合流して日が浅いので、周囲とのコミュニケーションが密に取れていない部分もあるだろう。だが、金崎はいつでもどこでもボールを要求するので、時には味方が走りこむべきスペースを消してしまっていた場面もあった。
一方、F・トーレスは「ストライカー」として自分の役割を整理しているので、無駄な動きは最小限にとどめている。最前線でのボールキープやポストプレー、裏への抜け出しに全力を注ぐものの、前向きのドリブル突破で1人はかわせても、2人、3人と囲まれれば難しいので、そういったプレーは極力避けるといった具合である。
例えば55分の決定機の場面。それまで縦パスの数が少なく、相手の最終ラインの裏を狙ったボールもほとんどなかったが、F・トーレスは絶妙な駆け引きで後方からのロングボールを呼び込んで、胸でコントロールしてからループシュートを狙った。最終的には磐田のGKカミンスキーに防がれたが、得意な形であればシンプルなプレーでもゴールに結びつけられる可能性を示した決定機だった。
鳥栖の選手構成を考えれば、今後もF・トーレスと金崎の2トップが軸になっていくだろう。途中出場の豊田も精彩を欠き、田川亨介も彼らを脅かすには至っていない。イバルボは負傷で登録抹消となり、チョ・ドンゴンも左足骨折の手術から万全の状態で復帰できていない。
となれば、チーム全体が「見ている」F・トーレスと、その新たなエースストライカーのことを「見ているようで見ていない」金崎を同時に起用して、いかに相乗効果を生み出せるかが浮上のきっかけをつかむための鍵になる。
金崎も決して質が低いわけではなく、磐田戦でもチャンスメイクでは存在感を発揮した。ただ、F・トーレスとの関係が薄いというのが現状である。早くもチームメイトたちからの信頼を勝ち取り、ボールが自然と集まってくるF・トーレスと、前所属クラブとは全く違う環境に飛び込んできたばかりの金崎の役割をそれぞれどのように整理し、全うさせるか。少々ギスギスしているように見える2人が“仲良く”プレーできれば、自ずとチームの成績も上昇していくはず。今こそ、マッシモ・フィッカデンティ監督の手腕の見せどころだ。
(文:舩木渉)
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