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Jリーグ 6年前

神戸が身につけるべき「イニエスタの感覚」。究極のシンプルさと研ぎ澄まされた判断力

text by 舩木渉 photo by Wataru Funaki, Getty Images

ルーキーが掴んだイニエスタの「癖」

 もう1つ例を挙げると、イニエスタはボールを持っていない時にほとんど首を振らない。常にボールに対して半身の状態を作りながら、ボールや周りの選手たちが動くたびに身軽にくるくると体の向きを変えていく。その間に周囲の状況を、大槻が言うように「間接視野」で確認しており、それを元に味方と相手の動きを予測して次のプレーやポジショニングを判断していく。この「認知→判断→行動」までのプロセスがとてつもなく早く、極端に言えば体の向きだけで味方からどこにボールが欲しいか、次にどこに出すつもりかのメッセージも送っている。

 大槻は「シンプルなんですけど、最終的にラストパスのときは『ここに出てくるんや』という印象は受けました」と言うが、「僕らも『パスが来る』という意識で動かないと。イニエスタは相手には読めないけど僕らにはわかるという、僕らにしかわからないパスを出してくれるので、そういったところで僕らはしっかり(イニエスタが見ている)スペースを見つけなければいけない」とも語った。

 結局のところ合流して間もないデビュー戦では、さすがにイニエスタ1人だけの力で流れを大きく変えることはできず、サッカーはチームスポーツであることを実感させられた。だが、同時に今後は「イニエスタのチーム」にしていくべきではないかという実感も得たはずだ。

 すでにチームへの融合は進みつつある。湘南戦、イニエスタの隣でプレーしていたルーキーの郷家友太は、早くも少年時代から参考にしていたというレジェンドプレーヤーの癖をつかみ始めていた。

「イニエスタはリズムを作りたいのか、裏に抜けてほしいのか、わかりやすい持ち方をするんです。僕たちにとってすごく動きやすいですし、繋ぎやすいのかなと思います。ちょっとボールを離したら蹴るそぶりをするので、そういう時は(裏に)抜けてほしいのかなと。今はスピードを上げなくていいという時は、フリーでもそんなに前を向かずに横でリズムを作って、相手が来たら縦パスでスピードアップするという緩急があるので、わかりやすかったですね」

 イニエスタ自身も、万全でない状態でプレーした試合翌日に自ら志願してチームメイトたちとボールを蹴ることを選んだように、新たな環境への順応に並々ならぬ意欲を見せている。真のプロフェッショナルと共に練習や試合をこなしていく中から、郷家のように細かな癖やタイミングをいち早く見つけ出し、すり合わせていく作業が必要だろう。

 大槻は「(イニエスタのパスに)遅れちゃったら得点にも繋がらないと思うので、僕たちが合わせるしかない。たぶん彼クラスになると自然と合わせてくれると思うんですけど、僕たちもそこは感じないといけないと思う。僕たちが動き出せば(いいパスが)出てくると思うし、しっかり(イニエスタが見ている)スペースを見つけることが大事。僕たちがしっかりレベルを上げなければいけない」と、同じピッチに立ったことで決意を新たにしているようだった。

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