シンプルだからこそわかりやすい質の高さ
湘南ベルマーレに0-3で敗れたJリーグデビュー戦から一夜明けた23日、ヴィッセル神戸の練習場にアンドレス・イニエスタの姿があった。
前日の試合に出場した選手は、スタメンかベンチスタートか問わず室内調整の予定だったが、イニエスタは自ら志願して炎天下のピッチに出て、湘南戦でプレーしなかった選手たちとの練習に混ざった。
イニエスタに背番号8を譲った三田啓貴は「1日でも早くいい状態にしようという強い気持ちを感じる」と、プロフェッショナルとしての姿勢に感銘を受けた様子だった。バルセロナからやってきた“魔法使い”は、取材に訪れたメディアも参ってしまうほどの猛暑の中、ストレッチやサーキットメニューをはじめ、コートの大きさを変えながらのミニゲームなど約1時間にわたって精力的に汗を流した。
湘南戦は59分からの途中出場で、イニエスタは存分に「らしさ」を発揮した。やはりコンビネーションや自身のコンディションが万全でないのは明らかだったが、それでも神戸の攻撃は一気に活性化。シュート2本と完全に停滞していた前半と打って変わって、後半は5本のシュートチャンスを作るなど目に見える変化が現れた。
イニエスタ自身「負けている時に入るのは難しいですし、周りの選手たちもすでに何十分もプレーしている中で、さらにまだ呼吸が合っていないチームに入るのは難しかったところはあった」と認めたが、「できるだけ前を見て、攻撃を組み立てること、そして縦へのパスだったり、そういったものを探すようなプレーを心がけていました」と語った通りの動きを見せていた。
神戸はイニエスタの投入によってシステムを4-4-2から4-3-3(守備時は4-2-3-1に近い形)に変え、中盤を厚くしたことによってチャンスを作れるようになっていった。とはいえ、チーム合流から間もない選手がいきなり周りと呼吸を合わせることは難しい。ボールを受けてシンプルに捌き、すぐにポジションを取り直す動きはいつものイニエスタだったが、やはり体は重そうで、相手の急所に刺すようなスルーパスもなかなかタイミングが合わずに苦しんだ。
右サイドで奮闘した神戸のFW大槻周平は「間接視野で僕らのことを見ていて、相手に予測がつかないような感じでパスを出してくる」と、イニエスタとの初共演を振り返った。確かに試合や練習を見ていても、神戸の他の選手たちとイニエスタでは判断のテンポが全く違う。
例えば、試合前の「鳥かご(ロンド)」を見ていても、日本人の選手が2タッチを使うような場面でもイニエスタは全て1タッチで確実にパスをつないでいく。2タッチしてしまうと、1タッチ目で一瞬考えてしまい、その間に選択肢が消えていく。
一方、イニエスタはボールを受ける前から味方と相手の位置を正確に把握してどこにボールを渡すのが最善かを見極め終えて、瞬時の判断で動く。ただ空いている選手にパスを出すのではなく、どの向きでボールを呼び込んで、どこに配球すれば次につながるのか(試合中であればゴールに向かえるのか)まで考えられているようなパス。シンプルな練習だからこそ見えやすい質や目的意識の違いは興味深かった。