本田のAリーグ移籍が持つ意味
ではここで、本田圭佑の豪州移籍はが実現することで、当事者がどのようなメリットを得るのか。そのあたりを読み解いていこう。
まず、本田サイド。メルボルン・ビクトリーに前述の「ゲスト・マーキー」で入団という前提で話を進めると、出場機会は保証されているに等しい。年棒も希望額に近いものが得られる。
そして、何よりもメルボルンと言う都市環境。世界のカフェ文化をけん引するなど、「住んでみたい」とか「暮らしやすい」といった類のランキングの常連であるメルボルンでの生活は、欧州で長く過ごした本田には親和性が高いはず。
日本での人気と知名度も上がっているメルボルンへの移籍であれば、「本田圭佑」というブランドに及ぼすデメリットもない。さらには、今後、世界的なビジネスマンを目指す本田本人にとっては、英語圏で暮らしプレーすることでの英語力向上という付加価値も見いだせる。地理的なメリットも少なからずあり、メルボルンー成田間は直行便で10時間。これも、欧州またはメキシコと行き来した本田にしてみれば、時差が大きくない分、さほどの負担にはなるまい。
さらに、本田側にメルボルンにこだわりたい理由もある。それは、昨年から豪州2部リーグ相当のビクトリア州1部ハイデルバーグ・ユナイテッドとの業務提携で展開する「SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL HEIDELBERG」の存在だ。「ソルティーロ」を自身のビジネス展開の柱に据える経営者・本田圭佑が、サッカーが国内最大の競技人口を誇るスポーツ大国・豪州をそのビジネス・ターゲットとしないとは考えにくい。そうなれば、本田のプレゼンス、それに勝るプロモーションはないだろう。
むしろ、「本田でなければ」と交渉に前のめりなのは、FFAとAリーグの方だ。有力視されながら最後の最後で逃したフェルナンド・トーレスの獲得失敗後、FFAは「ゲスト・マーキー」制度の有効利用でリーグ人気を活性化させる思惑の実現のために、その任に堪えうる「スター選手」を強く求めている。
本田とは、ロシアワールドカップの前段階で下交渉があり、5月の終わりの段階でAリーグのトップであるグレッグ・オルークは、「彼がどこか他のクラブとサインするのを見届けるまではあきらめない」と公式の場で熱烈ラブコール。だからこそ、話はスムーズに進んでもおかしくはないのだが、いまだに妥結には至らないとなると、金銭的なギャップが埋まらないのか、それとも、一部で取り沙汰される「本田引退」の意思が覆せないのか。はたまた、他にもっと魅力的なオファーがあるのか……もう、このあたりの事情は勝手に想像するしかない。