サッカーの「日本語化」の必要性
要は数式で説明するか、言葉で説明するかの違いだ。数学では「解」までの過程を言葉から数字や数式に変換して説明でき、サッカーは「ゴール」までの過程を言葉で説明できる。お互いに共通しているのは「言語化」に他ならない。
数学は原始時代から概念こそ存在したものの、現代に繋がる様々な公式や定理などはほとんどが中世以降のヨーロッパで発見された。しかし、我々が学校で習う定義や定理には、全て日本語があてられており、他の言語にも必ず訳語が存在する。
例えば中学数学の序盤に習う「一次方程式」は、英語なら「Linear equation」、スペイン語なら「Ecuación de primer grado」、ロシア語なら「Линейное уравнение」といった具合である。
このように数学は普遍的な学問で、「一次方程式」や「Linear equation」という単語が、全世界共通の数式を内包することによって、世界中のどこでも同じように用いられる。そして与えられた問題を解くために、様々な数式や定理を組み合わせていくのも世界共通だ。それらの中身(証明)を知っていれば、誰でも問題を解くのに使えて、誰でも学者が発見した理論を再現できる。
ではサッカーはどうだろうか。よく「サッカーは世界の共通言語」「サッカーに言葉はいらない」というが、ワールドカップのような舞台で戦うために「言語化」は不可欠ではないだろうか。確かに「ボールを蹴ってゴールに入れる」という根幹の部分に言語は必要ないかもしれないが、競技として勝つために「蹴って」から「ゴールに入れる」までのプロセスを論理的に紐解いていかなければ、すべてが偶然のままになってしまう。プレーに再現性がなければ、試合や練習の中で出た成果は積み上がっていかず、成長にも繋がらない。
そこで重要になるのが「公式」や「定理」である。以前よく目にしたスペインの「Entre líneas(エントレリネアス)」という言葉がある。これは日本では「相手守備組織のライン間に生まれたスペースに入っていく動き」と説明されるが、「一次方程式」のようなわかりやすい言葉はあてられていない。あくまで「エントレリネアス」の中身を説明するにとどまっている。
このような例は数多くある。最近では「ポジショナルプレー」や「5レーン」といった言葉が頻繁に、さも当たり前のように使われているが、これらの中身(証明)を正しく理解したうえで、日本語に「定理」として落とし込めているだろうか。サッカーは数学と同様にヨーロッパで生まれたスポーツで、ヨーロッパで生み出され続ける最先端理論は常に世界の先頭に立っている。
一方、数字で目に見えるデータは誰もが平等に利用できるようになり、映像もいくらでも手に入る世の中で、相手の対策を立てることへのハードルは劇的に下がっている。その中で勝っていくために必要なのは、ゴールへ至る選択肢をいくつ持っておくかだ。チームとして繰り出せる手札が多ければ多いほど、ゴールという「解」を導き出し、勝利する可能性は上がる。そのためには最先端を理解して一般化し、常にアップデートし続ける必要もある。