ワンマンチームの凋落から見えたトレンド
ロシアワールドカップは数多くの名勝負が生まれ、歴史に残るエキサイティングな大会だったのではないだろうか。
しかし、戦術的な革新があったわけではなかった。スペインのパスサッカーが猛威を振るった2010年南アフリカ大会や、より守備に重きを置きながらゴールに直線的に向かうサッカーにシフトした2014年ブラジル大会のような、尖った傾向は見られず。キーワードは「バランス」だった。
多くのチームが守備時には4-4-2や4-1-4-1、5-4-1のブロックを敷いて、組織的に守り、ゴールに対して速く効率的に向かっていく。優勝したフランスはスター選手揃いにもかかわらず全員がチームプレーを厭わず、強固な守備からのカウンターを武器にしていた。クロアチアやベルギーは対戦相手に合わせた柔軟性を持っていて、イングランドもチームとして手堅く勝つための術を身につけていた。彼らだけでなく、日本など他の多くの国も攻守のバランスを意識したチーム作りをしていた。
逆に「ワンマンチーム」と言われるような、強みが偏ったチームは苦戦を強いられた。例えばアルゼンチンは、リオネル・メッシが絶対的な中心で、彼が動かなければ周りは動かなかった。するとグループリーグ初戦のアイスランド戦で、初出場国に抑え込まれてしまった。ストロングポイントがわかりやすくなることで、相手にとっても対策が立てやすく、そのための材料が揃いやすかったことも彼らの苦戦と早期敗退に影響しているだろう。
テクノロジーの発達によってデータ分析やスカウティング技術が向上し、今大会は各チームに提供されたタブレット端末でリアルタイムデータをベンチにいながら参照できるようになった。自分たちのことも、相手のことも知るという点において、平等なクオリティが保証された中で、上位に進出したチームとそうでないチームに生まれた差は何だったのだろうか。
サッカーは「数学」に近いと、常々思っている。ゴールを奪うことを「解」とするならば、そこに至るまでの過程の「解法」をいかに導き出し、選択肢をいくつ持つことができるか。これがチーム力の差となってピッチ上に現れたと解釈できないだろうか。
数学では、それぞれの問いに対する答えは1つでも、「解法」は複数存在する場合が多い。そしてそれらの「解法」は、自分が過去に身につけてきた「定義」や「定理」「公式」といったものを応用し、組み合わせることで成り立つ。
1つの「解」に対して「解法」が存在する場合、そこに至るまでの過程は全て論理的に説明できるようになっている。これはゴールを奪うまでのプロセスを、ピッチ上の現象と選手の判断によって説明できるサッカーと似ているのではないだろうか。