ベルギーの奇策とチーム作り
準々決勝のベルギー対ブラジルは、この大会を象徴する一戦だった。
オールスター化していたベルギーは、まるでブラジルのようにタレントを使い切れずに苦心してきた背景があった。ところが、本物のブラジルと対戦して自分たちが「ブラジル」でないと気づいたのだろう。ブラジル用の奇策を用いて前半を2-0とリードした。
後半はブラジルが攻勢に転じたが1点を返すにとどまる。45分間を戸惑ったまま過ごしたのが敗因といえば敗因であり、その点ではベルギーの対策による勝利といえるかもしれない。ドイツに勝ったメキシコと似たケースといえる。
メディア的には、ベルギーやメキシコが「作戦で勝った」という切り口になる。だが、当事者としては全く違う話であるのは間違いない。
例えば、コップ一杯に水が満たされていて、そこに数滴が追加されてドッと水が溢れる。数滴にあたる「作戦」は水が溢れるというメディアが食いつきそうなイベントの直接的な要因ではある。けれども、当事者にとって重要なのは、それ以前にコップを満たしていた水量のほうなのだ。
チチャリートへ縦パスが入った瞬間に、ダイレクトでパスが来ると信じてドイツの選手よりコンマ数秒早くスタートを切れるかどうか。あるいは、誰よりもハードワークした原口元気がスプリントしてボールを呼んでいるからこそ、柴崎岳はそこへ最大限の集中力を込めたパスを出す。その瞬間、選手間に火花が散るバックグラウンドがあるかどうかが、ある意味すべてである。
ベルギー戦で後半から盛り返したブラジルは、奇策に対する対策を立てたわけではない。前半を無駄にしたために、逆転する時間が足りなくなっただけだ。ブラジルに欠けていたのは右SBのダニエル・アウベスである。負傷でメンバーに入らなかった。SBがゲームを作るブラジルは左だけの片翼飛行を余儀なくされ、予選で右ウイングだったコウチーニョを左のMFにして左攻めに賭けた。
このストーリーを読んだベルギーは第3SBだったファグネルに最強の武器であるエデン・アザールをぶつけ、ブラジルの左攻めの裏側にロメル・ルカクを置いたわけだ。そこでブラジルが戸惑ってしまったのは、少しだけ「水量」が足りなかったからだろう。