特化型が敗れる
大会前の優勝候補はドイツ、ブラジル、スペイン、フランス。さらにリオネル・メッシを擁するアルゼンチン、ユーロの覇者であるポルトガルといったところ。ところが、優勝候補はいずれもグループリーグから苦戦していた。ドイツはグループ最下位でベスト16に進めず、スペインとアルゼンチンもラウンド16で敗退。ブラジルさえベスト4に残れなかった。
攻撃と守備のプレー循環を最も完成度高く仕上げていたのはスペインである。圧倒的なボールポゼッション、CBが敵陣の半分まで進出しているために相手のカウンターを敵陣で芽を摘む守備ができる。ポゼッションとカウンター潰しの組み合わせに特化したスタイルを確立していた。
スペインほどのパスワークの精度、テンポ、アイデアはなかったものの、ドイツもほぼ同じ攻守循環を持ったチームだった。ブラジルはハイプレスがさほど機能せず、結果的に攻め込まれるケースが多かったが、守備そのものの耐性が強く、引くことで威力のあるカウンターアタックを使えた。全方位型のチームとして成立していた。
ところが、完成度の高い優勝候補はその完成度ゆえに敗退してしまった。
ドイツは初戦でメキシコに敗れたのが尾を引いた。バイエルン・ミュンヘンの選手が多く、それゆえにコンビネーションも確立されていたのだが、逆にブンデスリーガで行われていたバイエルン対策をそのままメキシコに利用されてしまった。
スペインのプレーは、手で行うボールゲームであるハンドボール、バスケットボールにサッカーを近づける試みだったともいえる。スペインがボールを確保したが最後、ハイプレスもミドルプレスも効き目はない。対戦相手はことごとく深く引き、いわゆる「バスを置く」守備で対抗した。
これはボールを持たれたが最後、基本的にはゴール前を固めるしかないハンドボール、バスケットボールと似た試合の構図である。しかし、サッカーはまだハンドボールではないことも今大会では示された。スペインはなかなか点をとることができず、1度も負けていないが勝ったのも1度だけ。PK戦でロシアに敗れた。