主役はVAR
ロシアワールドカップで最も注目され、将来に影響力を持ったのは、チームでも選手でも戦術でもなくVARだ。
セットプレーからの得点は73ゴール、総得点の43%だった。過去最高が1998年の61得点なので明らかに増えている。PKの増加もあるが、CKやFKのときにペナルティーエリア内でのファウルが厳しく監視されるようになったことが影響を与えている。逆にいえば、それだけ従来は相手のユニフォームをつかんだり、体を押さえ込む、体をぶつけて潰すなど、「ファウル」によって失点を防いでいたのだ。
VARの導入によって、判定精度は95%から99.3%に上がったという。これだけだとそんなに大きな違いはないようだが、VARが使われるのはほとんどがペナルティーエリア内での得点に関わるような重要場面なので、それからすると16回も判定が覆っているのはかなりの影響力といえる。
今後もこの判定システムが継続されるとすると、セットプレーから得点を狙うチームは増えていくと予想される。ファウルに頼らずに守る技術も上がっていくだろうが、当面は従来よりも防御力は低くなる。CKやFKからのハイクロスはより重要な得点源になるので、精度の高いキッカーと空中戦に優位性のある選手が重宝されることになりそうだ。ベスト4まで勝ち上がったイングランドは、12得点中9点がセットプレーからだった。
ペナルティーエリア内でのファウルは減っていくだろう。では、エリアの外ならファウルが増えるかというと、こちらもセットプレーの恐さがあるので急に増えることはないと思われる。同時にシミュレーションも減る。つまりフェアプレーが浸透し、より正確な判定ができるようになる。VAR導入はサッカーにとって間違いなくプラスである。
ただ、それが機械によってもたらされたのは皮肉な結果かもしれない。FIFAはこれまで一貫してフェアプレーを推進し、数々の施策と啓蒙活動を行ってきたが、劇的な効果はなかったといっていい。それがVARを導入した途端にファウルが減り、選手の抗議も激減した。VARを求めるアピールは増えているわけだが、判定そのものへの異議は減った。選手も人間より機械を信用しているのだ。
この流れからすると、将来すべての判定を機械で行うようになっても不思議ではない。サッカーを契機に、やがて信用できない政治家よりもAIに物事を決めてもらいたいという声も出てくるかもしれないとさえ思った。今大会最大の勝者はVARである。