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フランスには、なぜカンテのような選手が生まれるのか? 仕事人の存在こそ優勝の絶対条件【西部の目/ロシアW杯】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

無私の男

 フランス語のガーディアンはサッカーではGKを指すが、アパートの管理人もガーディアンだ。そしてなぜか管理人にはポルトガル人が多い。家政婦といえばポルトガル人のイメージがある。香港ではフィリピン人だった。そうなる経緯があったのだろうが、職業と国籍に関連がある。パリで清掃員の作業着を身につけ、午後に道路の掃除をしている人はアフリカ系の黒人が多かった。3K(きつい・危険・汚い)仕事だ。

 かつてフランスでは黒人選手といえばリベロだったという。80年代の名手マリウス・トレゾールが有名だったが、草サッカーでもそうだったらしい。知り合いのフランス人の説明によれば、「GKの前に黒人を置くのは保険」だという。身体能力に優れた黒人選手を守備の最後尾に起用することで、できるだけ失点を防ごうとしたわけだ。ただ、本当にそれだけだったのだろうかとも思う。地味できつい仕事を黒人選手に押しつけていたのではないか。

 フランスは世界的に最も人種差別意識の低いほうの国だろう。それでも差別とまでいわなくても固定観念のようなものはあった。80年代に育成を整備するのに伴って、黒人選手をDFではなくFWに起用する施策が意識的にとられている。それまで黒人FWがいないわけではなかったが、急増するのはティエリ・アンリやニコラ・アネルカの世代からだった。

 アフリカ系の黒人選手といっても、さまざまなタイプがある。スピードに秀でた瞬発系、長身頑健なパワー系、そしていつまでも走り続けられるスタミナ系と少なくとも3つぐらいには分けられる。80年代に活躍したジャン・ティガナ、マケレレ、カンテはスタミナ系だ。身長はむしろ低く、体つきも頑健ではない。その軽さが持久力につながっているのかもしれない。中盤の広いスペースで足を止めずに動き続けることができる彼らは、黙々とハードワークをこなしてくれる。

 カンテは物静かで、エゴがなく、淡々と2人分の仕事をこなしてしまう。フランスの黒人選手としては古いタイプといえるかもしれない。派手なプレーは一切やらないが、彼がいるからチームのすべてが回っている。エースでも中心でもないけれども、今回のフランスが誰のチームかといえば、おそらく多くの人はカンテの名をあげるのではないだろうか。

(文:西部謙司)

【了】

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