わかっていても止められないデ・ブライネ
現在得点ランキングトップに立ち、イングランドの最前線に君臨するハリー・ケインがヴァンサン・コンパニに抑え込まれてしまい、ゴールへの糸口を見つけられないイングランドを、ベルギーは強烈なカウンターで苦しめた。
ラウンド16で日本を葬った、あのカウンターである。その起点はやはり、日本戦と同じくデ・ブライネだ。ベルギーの選手はボールを奪うと、まずデ・ブライネを探してパスを渡す。あるいはこぼれ球がなぜだかデ・ブライネの足もとに収まっていく。
そこからデ・ブライネが一気にスピードを上げると、呼応するように周りの選手たちも一斉にゴールへ猛ダッシュ。最低でも4、5人が絡んでジョーダン・ピックフォードが守るゴールに襲いかかる。
ボールを運ぶデ・ブライネは、マンチェスター・シティで培った「スペースの使い方」を存分に発揮する。素早く正確な状況判断力を生かして進むべき道を見つけると、狭かろうがスピードに乗ったまま入り込んでいく。そこがすなわち相手の急所で、自らの仕掛けで守備組織のバランスを崩したところで、フィニッシュを狙って別のスペースに走り込んだ味方へキラーパスを送る。
ここでデ・ブライネがスペシャルなのは、カウンターに移った時点でゴールまでの道筋を明確に描いてプレーしていることだ。彼は自分も味方もスピードを一切殺さずゴールに向かえるようなパスを出す。スペースを作る・使う感覚を日頃から磨いていても一朝一夕に出来る芸当ではない。
一見何もないところから瞬く間にビッグチャンスを作ってしまう「創造主」こそ、ケビン・デ・ブライネなのである。イングランド戦でもスルーパスからルカクに2つの決定機をおぜん立てし(決めきれなかったが)、カウンターではなかったが82分にはアザールのゴールをアシストした。
イングランドを蹴落とすこの1点は、GKティボ・クルトワからコンパニへの何でもないパスを起点に、ヴィツェルを経由して、中盤のわずかなスペースでボールを受けたデ・ブライネが一気にスピードを上げたところで勝負あり。イングランドの中盤は一瞬で置き去りにされ、それまで整っていた5人のディフェンスラインもバラバラに。そしてその最終ラインにできたギャップから飛び出したアザールに、デ・ブライネから絶妙なラストパスが通った。
高度な意思疎通を一瞬でこなし、チーム全体で同じイメージを共有しながらゴールを目指したときのベルギーの破壊力は計り知れない。その中でも、難しいプレーを具現化する技術の高さに加え、視野の広さ、90分間クオリティを落とさないフィジカル、判断の早さと正確さ、周りを動かしてシナジーを生むリーダーシップ、守備を怠らない献身性、多様な役割を柔軟にこなせるユーティリティ性、相手へのリスペクトを欠かさないインテリジェンス…あらゆる要素を極めて高いレベルで兼ね備え、そしてそれらを最もシンプルかつ効率的な形でピッチ上で表現できる「現代サッカーの申し子」がデ・ブライネだった。