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代表 6年前

クロアチア、強さの根源。始まりは「ギロチンマッチ」。指揮官が不屈の魂を植え付けた道のり【ロシアW杯】

text by 長束恭行 photo by Getty Images

20年前の幻影を振り払った「新生ヴァトレニ」

ニコラ・カリニッチ
カリニッチの追放は、チームの結束力をより一層深めた【写真:Getty Images】

 クロアチアが属したグループは、ナイジェリア、アルゼンチン、アイスランドが同居する「死の組」。最難関とされた初戦のナイジェリア戦でみせたスタイルは、まさにダリッチ監督が志向するロングボール戦術だった。

 ファイナルサードでの崩しを洗練させるほどの時間が残されていなかったため、あくまで彼らは実理性を取った。セットプレーの事前練習は何回も繰り返した。CKとPKから2得点を奪ってナイジェリアを倒すと、ダリッチ監督は試合後にこう意見を述べた。

「美しさはないが、我々は勝ち点3を手にした。もはや美しいサッカーやポゼッションサッカーの中で死ぬような時代ではない」

 今のクロアチアにとっては、アルゼンチンのように前へと出てきてくれるチームのほうが与しやすい。モドリッチとラキティッチのダブル司令塔はスペース攻略のアイデアにおいて世界最高水準のMFだからだ。

 むしろ、自陣に堅固なブロックを築く相手のほうが難儀で、グループリーグ第3戦のアイスランド、決勝トーナメントに入ってからは1回戦のデンマーク、準々決勝のロシアにクロアチアが大苦戦した理由はそこにある。

 だが、今のクロアチアの強みは逆境に立たされてからの精神力とチームワークだ。アルゼンチン戦後に起きた「カリニッチ追放事件」(クロアチアが「選手追放」の混乱にも揺らがない理由。強く結ばれた“家族”の絆【ロシアW杯】)はチームの結束力を一層高め、延長戦の顛末では精神的に劣勢に立たされるはずのデンマーク戦とロシア戦は、連続してPK戦までの死闘を乗り越えた。

 準決勝のイングランド戦はそれこそクロアチアの底力を発揮した試合だった。後半からは疲労をものともせず「サッカーの母国」を圧倒。試合を重ねていくうちに選手間の呼吸も合い、崩しのパターンも増えてきた。マンジュキッチの決勝ゴールで延長戦で蹴りをつけ、彼らが常に比較されてきた「ヴァトレニ」(”炎”を意味するクロアチア代表の愛称で、とりわけフランスワールドカップ3位のチームを指す)の幻影を振り払った。

 建国史上初のファイナル出場を決め、いまだ興奮覚めやらないイングランド戦の翌日、ダリッチ監督は記者会見で”あの言葉”を口にした。

「我々は最も困難な道を歩んで来た。おそらくワールドカップで事実上の8試合(決勝までの7試合+延長戦30分×3)を戦った唯一のチームになるだろう。選手たちは大きな努力を費やしてきた。だが、より困難を極めた時ほど我々は強くなれる。フランスが1日休みが多かろうと恐怖心はないよ。言い訳などはない。ワールドカップの決勝を戦えることなんて人生に一度切りなのだから。いくらフランスが有利だろうと、クロアチアがパワーとモチベーション、エネルギーを見出すことを私は信じている」

 20年前のワールドカップでヴァトレニの壁として立ちはだかったのが、のちに初優勝を果たす開催国フランスだった。リベンジの舞台は既に準備されている。あらゆる壁を乗り越えてきた「新生ヴァトレニ」にもはや恐れるものは何もない。

(文:長束恭行)

【了】

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