ダリッチ監督就任は大一番の2日前
「最も困難な時こそ、僕たちは最も強くなれる」
これは、昔からクロアチア代表において好んで使用されるフレーズだ。そのように自己暗示をかけながら逆境を楽しむ節すらもある。サポーターの声援が一段と大きくなるのも、相手にリードされた直後。決勝トーナメントに入ってからのクロアチアは、まるで不死鳥であるかのように劣勢からよみがえってきた。
いずれの試合も相手に先制されながら、決して勝負を諦めず、120分を戦い抜いた上でもぎ取った勝利。今のクロアチアの勝負強さを紐解くには、時計の針を少し巻き戻す必要がある。
ズラトコ・ダリッチが臨時監督として指名を受けたのは、昨年10月7日のこと。欧州予選の終盤でチームを失速させたアンテ・チャチッチ監督が電撃解任。2日後に控える最終節の相手は、2位争いの直接対決となるウクライナ。6万人の相手サポーターに囲まれたキエフでのアウェイマッチに勝たねば即終焉という、彼にとっての「ギロチンマッチ」だった。
「クロアチア代表を率いる話はさすがに断れない。これは私にとっては人生における最難関の課題であり、最大の挑戦だ」
ダリッチ臨時監督は対話を通して鎮痛な面持ちの選手たちを奮い立たせ、前任者に冷遇されたFWアンドレイ・クラマリッチの2得点で勝利に導く。拙書『東欧サッカークロニクル』でも書いたように、近年のクロアチア・サッカー協会の悪政やフーリガン問題は深刻を極めており、代表を巡る状況も最悪の状態だった。だが、ウクライナ戦を機にムードはすべて一転した。
サッカー協会のダヴォル・シュケル会長はダリッチを値踏みするだけで何一つ契約を提示しないまま、翌月のギリシャとのプレーオフも任せることに。ギリシャはこれまでクロアチアが1勝3分2敗と苦手としてきた相手だが、ザグレブの初戦で4-1と一蹴してロシア行きをほぼ手中に収めると、CBデヤン・ロヴレンは試合後に語った。
「クロアチア全土が僕たちに寄り添ってくれた。この状態が続くことを願っているよ。僕たちが誰であるかを示せたんだ。とりわけ今のような最も困難な時こそね」
主将のMFルカ・モドリッチを中心とする選手たちから圧倒的な支持を得ることで、”救世主”というべきダリッチが代表監督として正式契約を結んだのはプレーオフ直後のことだった。