クラブ的な雰囲気が生み出した責任感
ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドやアルゼンチンのリオネル・メッシ、ブラジルのネイマールやフランスのキリアン・エムバペ、ベルギーのエデン・アザールといった、個人の力でチームを勝利に導くような存在は現在のイングランド代表にはない。ただ、ウォーカーが話したとおり、現スカッドにはサッカーに欠かせないチームワークがある。
『BBC』で解説を務めるジャーメイン・ジーナスは、スウェーデン戦後に選手たちをこう褒め称えている。
「現チームは、全員が連帯責任を持ってプレーしている。この試合でも、終盤にウォーカーがボールを持った状況で、ハリー・ケインが前方に立っていたところ、『こっちに来て守備を手伝え』とキャプテンに対して叫んでいた。ジョーダン・ヘンダーソンもウォーカーやケインとやりあっていた。ジョン・ストーンズやハリー・マグワイアも同様だ。私は、これは良いことだと思う。みんなが声を出して、責任を持ってプレーしている証拠だ」
さらに、監督就任直後の1年間は予選通過を最優先して、自分の目指すサッカーを押しつけるようなリスクは負わなかった。だが昨年秋にワールドカップ予選突破を決めると、サウスゲイトは自身の好むプレースタイルを一貫して推し続けた。
それは3バックをベースにしたパスサッカーであり、その完成度を求める中で、結果的に予選ではレギュラークラスだった選手もあっさりとスカッドから外している。それがジョー・ハートであり、マンチェスター・ユナイテッドでレギュラーを張るクリス・スモーリングであり、昨季に活躍したジャック・ウィルシャーであった。
一方で、ラヒーム・スターリングやデリ・アリ、マグワイアやキーラン・トリッピアー、ジョーダン・ピックフォードなど、世論から懐疑的な目が向けられている選手たちを信頼して使い続けて、現チームにおいて重要な存在に成長させている。
特にトリッピアー、マグワイア、ピックフォードは今大会で急激に株を上げていて、大会後にはステップアップの可能性も囁かれているほどである。
成長を続けるヤングライオンズと、彼らに52年ぶりの世界制覇の期待を寄せるイングランド国民。記述のとおり、これまでの相手が簡単すぎたという懐疑的な目を向けられているのも確かだ。しかし今は選手たちだけではなく、この国全体が信じて疑わない。
「フットボール・イズ・カミング・ホーム」
フットボールが聖地に戻るその瞬間が、数日後に訪れることを……。
(取材・文:松澤浩三【イングランド】)
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