チームとして速さを生かす
アーセン・ヴェンゲルは「新しいペレになりうる」と話している。アンリ以外にはブラジルの英雄ロナウドともよく比較される。確かに十代のロナウドとも似ている。ロナウドは膝の負傷による長期離脱を経て復活、2002年ワールドカップ優勝の原動力となった。その後レアル・マドリーでも活躍したが、全盛期は重傷を負う前のバルセロナ、インテルの時代だった。あまりにも速すぎて膝への負担も大きかったのではないか。エムバペはロナウドほどのパワーはないぶん、スリムなのでケガのリスクは少ないかもしれない。
フランス代表のエースはアントワーヌ・グリーズマンだが、エムバペを生かそうとして気を使っているようにみえる。気を使うというより、エムバペを上手く生かそうとしている。それはチーム全体にもいえる。4-2-3-1のフォーメーションを採用しているが左右が非対称なのだ。
左のブレーズ・マテュイディは攻撃よりも守備の選手である。左で守備のバランスをとり、そのぶんエムバペを前で使おうという意図だろう。エムバペ自身は右サイドの守備もしっかりやっているが、守備にエネルギーを使わせるよりもカウンターの切り札として能力を発揮させやすい仕組みをディディエ・デシャン監督は用意したわけだ。左には攻撃的なトマ・ルマールやウスマンヌ・デンベレを使う手もあったはずだが、マテュイディが出場停止だった準々決勝のウルグアイ戦では似たタイプのコランタン・トリッソを起用している。エムバペ用の布陣を崩したくなかったのだろう。
エムバペの底知れない才能に、監督もエースもチームも、誰もが期待をかけている。
(文:西部謙司)
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