「試合の中のもう1つの試合」をいかに制すか
スウェーデン戦では、これ以外でもセットプレーの狙いは一貫していた。ペナルティエリアの端で4人が縦に隊列を組み、1人がニアサイドへ、2人がファーサイドに走って相手ディフェンスをブロックし、中央に最後の1人が走り込んでヘディングシュートを狙うという形がベースである。
隊列に入る4人はファーサイド要員にケインとジョーダン・ヘンダーソン、ニアサイドにストーンズ、そして中央にマグワイアとなっていた。ニアサイドとファーサイドの人数を入れ替える、中央に走り込む選手をマグワイアからストーンズに変えるなどいくつかのバリエーションも用意されていた。
相手によって縦列を組む位置や、選手の距離感などを細かく変えているが、やり方そのものはグループリーグと大きく変わっていない。初戦のチュニジア戦でケインが決めたヘディングシュートも、第2戦でのストーンズの一発も、バスケットボールの技術を応用してデザインされたセットプレーから生まれた。
ケインはパナマ戦の後、「アランは練習を終えると、相手DFやGKの弱点をどこでうまく利用できるかについて僕たちに教えてくれる。僕たちは全員がトッププレーヤーだから、彼は技術をどう使うか、ボールをどう蹴るかを教えてくれるのではない。ほんのちょっとのことが僕たちを強くしてくれる。彼がやってくれた攻撃のセットプレーも今ではうまくいっているし、練習の中でかなりやっているよ」とラッセルによる指導の効果を絶賛していた。
サウスゲイト監督も「アランはセットプレーのためにより多くの時間を費やしている。我々はこの大会でセットプレーを非常に重要だと考えており、改善できると感じていた」と、入念な準備の成果が出てゴールが多く生まれていることに手応えを感じているようだ。
前回大会までセットプレーからのゴールは25%程度しかなかったが、ロシアでは40%以上のゴールがセットプレーからもたらされている。イングランドやサウスゲイト監督は、このような変化を予測し、あらかじめ「試合の中のもう1つの試合」とも言えるセットプレーを入念に準備してきた。
キッカーを務めるキーラン・トリッピアーやアシュリー・ヤングのボールの精度も、得点力アップを大きく助けている。味方が身を粉にして作ったルートを走ってジャンプする選手の頭に正確にパスを届け続けるのは至難の業だ。
創造性からはかけ離れているかもしれない。だが、効率的かつ効果的にゴールを奪うための方法としてのセットプレーの活用は、勝利への近道であることに間違いない。イングランドの新たな歴史は、緻密な計算と入念な準備をもとに作られようとしている。
(文:舩木渉)
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