イングランドに入り込んだアメリカンスポーツ
サウスゲイト監督は、英『BBCラジオ5』のポッドキャスト内で「セットプレーは得点でも失点でも大きな割合を占める。(ワールドカップのような)大会ではより重要になっていくだろう」と述べた上で、2つの強豪国からインスピレーションを受けていることも明かした。
「スペインとドイツはともに素晴らしいサッカーをしているが、セットプレーから何得点決めたのか、あるいはスペインの場合はセットプレーからの失点がどれだけ少ないかを見てみると、それが彼らの成功において重要な役割を果たしていたのは間違いない」
今月4日、米『ウォールストリート・ジャーナル』には、サウスゲイト監督が今年2月にアメリカでNBAを観戦し、世界最高峰のバスケットボールからサッカーのセットプレーに通ずる考え方を学んだという記事が掲載されていた。
その時、実は同じミネソタ州ミネアポリスで行われたNFLのスーパーボウル、ミネソタ・イーグルス対ニューイングランド・ペイトリオッツの試合も観戦していた。アメリカンフットボールのシーズン最強を決める戦いからも、サッカーのセットプレーへのヒントを得たようだ。
この指揮官の学びが、ラッセルの経験と噛み合った。現役時代の終盤をアメリカで過ごしていたストライカーコーチは、アメリカンフットボールを目の当たりにして、大きな影響を受けたという。元チームメイトのタム・マクマヌスが英『BBC』に次のように語った。
「アランはアメリカに行った時、アメリカンフットボールにオフェンス、ディフェンス、キッカー、クォーターバック、ランニングバックと違う役割のポジションに、それぞれ専門のコーチがいることを見てきたのだと思う」
サッカーでポジション専門コーチがいるのはGKくらいだった。そこでラッセルはストライカー専門コーチという分野を開拓して子どもの指導から始め、いまでは会社も立ち上げ、イングランド代表のコーチにまで上り詰めた。そしてアメリカでの経験を生かせるセットプレーの設計も担うようになった。
イングランドのセットプレーには、バスケットボールの要素がふんだんに散りばめられている。ピック・アンド・ロール、スタック、スクリーンと呼ばれる基本的なチームオフェンスの技術をサッカーのピッチ上で応用し、効率的にゴールを奪っている。
例えばスウェーデン戦のマグワイアのゴールの場面。ペナルティエリアの端にマグワイアとハリー・ケイン、ラヒーム・スターリング、ジョン・ストーンズの4人が固まって立つ。そこからヤングがボールを蹴った瞬間にケインとスターリングが相手のマークを引きつけてブロックしながら前進し、2人が空けたルートにマグワイアがマークを剥がしながらカーブを描いて走り込んで打点の高いヘディングシュートを叩き込んだ。まさにバスケットボールのスクリーンやピック・アンド・ロールの動きである。