日本代表に欠如している「小狡さ」
そのエピソードとはブラジル出発前の壮行会のことで、選手たちが着替え、テーブルに時計や財布、ネックレスなどを置いて出て行った大部屋に誰も鍵をしなかったというもの。数メートル先には大勢の人たちがいたため、ザッケローニ氏は驚き心配したが、ほかに誰も特に心配した様子を見せなかったそうだ。
実際にイタリアでは、全くもって考えられない事態である。大都市では、スリなど日常茶飯事であり、鞄をカッターで切られて財布などの貴重品を盗まれることもあり得る。レストランでトイレに行く時でさえも、鞄を置いて行ってしまえば最後、中に入っていたものが残っている保証はない。そのような環境で過ごしていれば、数メートル先に大勢の人がいる大部屋に鍵をしないことに驚くのも大いに理解できる。さらに誰も盗みを働かない事実については、もはや信じることもできないだろう。
ザッケローニ氏は、そういった日本人の高い倫理的水準を認めた上で、それは弱点にもなり得ることを指摘している。「彼らは敗退には値してなかった」とベルギー戦での日本代表を評価すると同時に「ただ最後に、日本は稚拙なミスを犯した」と述べている。
「彼らのDNAと文化にはずるく立ち回るという精神がないのだ。あのときに戦術的なファウルを一つしておけば良かったかもしれないが、それが彼らには理解できないところなのだ」
ザッケローニ氏は、日本代表には「小狡さ」が欠如していると話す。それは、彼が指揮を執ったブラジル大会の日本代表にも共通する弱点であったが、先述の倫理的水準を持ち合わせている日本人にとっては問題にもならなかったとのことだ。
今大会、惜しくも史上初のベスト8進出を逃した日本代表に対して「世の終わりのような最悪の事態とは捉えない」とし、「むしろ、さらなる向上と経験を増すための機会として捉えるはずなのだ」と、ザッケローニ元日本代表監督は期待をのぞかせる。サッカー日本代表は今大会で味わった悔しい思いを払拭して、“日本人”としての殻を破れるのだろうか。
(文:浜川絵理【イタリア】)
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