ポストプレーがもたらしたチームのバランス
今大会で、ゴールを奪うための「鍵」として見直されているのが「ポストプレー」の重要性ではないだろうか。「ティキ・タカ」全盛の時代、いかにしてパスを繋いで崩し、美しくゴールに迫るかが重視される中で消えかけた要素が、より目に見える形でロシアのピッチ上にあらわれている。
フランスやロシアの戦い方の変化は、わかりやすい例だろう。前者はグループリーグの初戦で前線にアントワーヌ・グリーズマン、キリアン・エムバペ、ウスマンヌ・デンベレを並べてスタートしたが、オーストラリアの守備を前に攻撃が噛み合わず停滞した。
そこで後半からオリビエ・ジルーを最前線に配置し、グリーズマンやエムバペの立ち位置や役割を整理すると、攻撃の効率が一気に改善されチーム全体のバランスが整った。その後もフランスはジルーを起点にしたユニットを有効活用して大会屈指のクオリティを披露し続けている。
ロシアもグループリーグ初戦でサウジアラビアに5-0で勝利しながら、序盤は波に乗り切れない展開が続いた。そこで後半途中からフョードル・スモロフに代えて巨漢のアルテム・ジューバを最前線の据えたところ、終盤の20分間だけで3ゴールが生まれた。
ジューバは昨年のコンフェデレーションズカップで指揮官と衝突し、長らく代表から見放されていたが、投入された直後にいきなり2ゴールを決めて有用性を証明。その後も2年連続ロシアリーグ得点王の実績を誇るスモロフを抑えて、主戦として起用され続けている。
ジルーやジューバに共通しているのは、ゴールに背を向けたプレーを得意としている点だ。彼らは最も相手ゴールに近い位置で起点となり、周囲の選手の力を生かす術を心得ている。それによってチーム全体の攻撃プロセスが整理され、より効果的にゴールを奪うルートが導き出された。
もちろん「ポストプレー」というのは大柄なFWが相手DFと競り合ってボールをキープするだけではない。味方から縦パスを受けたストライカー自ら反転して前を向くこと、他の選手が前向きに仕掛けられるスペースを作ること、コンビネーションを使って攻撃を前に進めることなど、様々なプレーが広義の「ポストプレー」となる。
ベスト8に進出した国々には、異次元の領域に達しつつある唯一の例外であるブラジルを除いて「ポストプレー」を得意とする優秀なアタッカーが揃っている。フランスのジルーやロシアのジューバは言わずもがな、ベルギーにはパワフルさが持ち味のロメル・ルカクと俊敏性に優れたドリース・メルテンスがおり、ウルグアイではルイス・スアレスとエディンソン・カバーニの2人がともにポスト役をこなし、2人だけでゴールまでの一連の流れを完結させることができる。