仲間を第一に考える献身性。その素顔とは?
この日もタイムアップの笛が鳴り、倒れ込んで号泣した昌子源や乾貴士らのところに駆け寄って声をかけていた。世間一般では「本田はエゴイスト」というイメージが先行してきたが、彼ほど献身的で仲間を第一に考えるフットボーラーもそうそういない。
「ホントにこのチームの選手みんなが好きになった。こんなに好きになれると思わないくらい好きになった」という言葉が口を突いて出るあたりが、彼の人間臭さなのだ。
ブラジル大会を目指していた頃はメディアともほとんど喋らない時期もあったが、それはあくまでセルフコントロールの一貫だった。報道陣側ももともとの気さくなキャラクターを理解していたから、本田の振る舞いを受け入れた。まさに彼は多くの人に愛される男だったのだ。
ピッチ外での発信力も彼の魅力だった。ブラジルまでの4年間に「日本をワールドカップで優勝させる」と言い続け、惨敗に終わった時は日本中から凄まじい批判を受けたが、それでも本田は本気で日本を世界の頂点に引き上げるつもりで全身全霊を注いだ。
「日本は弱い」「ワールドカップで勝てるはずがない」といったメンタリティを根底から変えないと、いくら小手先の技術や戦術を向上させたところで絶対に高い領域には到達できない。ガンバ大阪ジュニアユース時代に試合に全く出られず、雑草魂で這い上がろうとしてきた男には、精神力が何よりも重要であることが分かっていた。
その姿勢をプロ、代表、そしてワールドカップレベルになっても貫ける選手はやはり少ない。「メンタルモンスター」とも言えるこの男がいたから、日本は過去3大会で2度のベスト16進出を果たせたし、日本代表の認知度が大きく上がった。そう言っても過言ではないだろう。
本田は今大会が「自身にとって最後のワールドカップ」と示唆したが、それが何を意味するのか。彼のキャップ数は98試合。これは奇しくも中村俊輔と同じだ。俊輔は南ア大会を最後に98試合のまま代表から退いたが、本田は100試合の大台に乗るのか。今後の彼の身の振り方に注目が集まる。
(取材・文:元川悦子【ロストフ】)
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