攻撃は決勝トーナメントで1ランク上に
また、守備面だけでなく決勝トーナメントに入ってからチームはもう1ランク上に達していた。グループリーグでは右ウイングのウィリアンが守備に奔走した結果、攻撃のほとんどがネイマール、コウチーニョ、マルセロ(フィリペ・ルイス)の左サイドからだった。コスタリカとの第2戦ではドグラス・コスタがウィリアンと交代で入り、右サイドを切り裂いたことで得点を生んだが、その後負傷。交代のカードを失っていた。
ところがこの試合ではウィリアンが攻撃面で大きな貢献を示した。ドリブル突破ではネイマールの2回を大きく上回る7回を記録し、7本のクロスと3本の決定的なパスを繰り出した。そして先制点をアシスト。データサイト『Who Scored』によるレーティングでは、FIFAのMOMネイマールの8.57よりも高い9.27を付けられた。
ウィリアンが攻撃で力を発揮できた背景には、右SBファグネルの変化がある。ダニーロの負傷によってコスタリカとの第2戦から起用されたファグネルだが、セルビアとの第3戦と2試合合計でタックルもインターセプトも3回だった。ところが、このメキシコ戦ではタックル5回、インターセプト3回と1試合で2試合の合計を上回る数字を記録した。
ファグネルが守備の意識を高めたことで、ウィリアンの負担が減り、攻撃にも力を注ぐことが可能となった。ここまでネイマールは徹底的なマークに苦しむ中で、それでも結果を残してきたが、相手チームにとって今後は逆サイドのウィリアンにも注意しなければならず、より守りにくくなるはず。
ベルギーとの準々決勝に向けて唯一懸念があるとすれば、カゼミーロが累積警告で出場停止となること。しかし、代わりとなるのはフェルナンジーニョ。このフェルナンジーニョも守備的MFとしてはカゼミーロと肩を並べる実力を持ち、ここまで全試合で途中出場しているため、試合勘やW杯の空気に慣れるという点でも不安はない。
我々日本人としては、近年最強といえるブラジル代表と日本代表がワールドカップ準々決勝で相見えるというシチュエーションとなれば、これ以上ないほどの興奮を得られたはずだが、それはあと一歩で叶わなかった。
終盤に勝負強さを見せたベルギーがブラジルを相手にどのような試合をするのか、これはもはや他人事ではなくなった。
(文:海老沢純一)
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