第2次黄金世代の「家族の絆」
現在のクロアチア代表はモドリッチやマンジュキッチ、イヴァン・ラキティッチなどメガクラブで活躍中のタレントが数多く揃うチームだが、フランスワールドカップで初出場3位の偉業を達成した黄金世代のチームと絶えず比較をされては、無様な敗退と厳しい批判が繰り返されてきた。
20年前のワールドカップで得点王に輝き、一時は「英雄」と持て囃されたダヴォル・シュケルは、拙著「東欧サッカークロニクル」でも書いたように、クロアチア・サッカー協会会長のポストにしがみつくだけで国内問題には無為無策の「裸の王様」を演じている。
あらゆる逆風の中、第2次黄金世代の主力陣にとっては、このロシアワールドカップが20年前のチームに追いつき、追い越すラストチャンスとなる。今のチームは合宿時からSNSを通して「Obitelj(家族)」のキーワードと共に情報を発信してきた。それだけに周囲を敬うことを忘れたカリニッチの振る舞いは決して許されるべきものではなかった。
監督就任から8ヶ月ほどのダリッチ監督にとっても、カリニッチの追放劇を通してオーソリティー(権限)を確立したといえる。それでも直後に迎えたアルゼンチン戦では選手たちに強権をちらつかすどころか、彼らをリラックスさせ、試合を楽しんでもらおうと、直前のトレーニングでは細かい戦術について何一つ話さなかったという。
ニジニ・ノヴゴロド・スタジアムに解き放たれた選手たちは、リオネル・メッシ擁する南米の強豪に襲いかかり、後半の3ゴールであっさりと勝負を決めた。記念すべき「100キャップ」を後半アディショナルタイムの守備固め要員として達成したチョルルカは、試合後にこう清々しく語る。
「自分の置かれているステータスをどう捉えているっかって? クロアチア代表のためならば観客席に座る準備もできている。それも必要とあらばカテゴリー3の椅子でも大丈夫さ!」
アルゼンチン戦で早くもグループ突破を決め、ターンオーバーで挑んだアイスランド戦のスタメンに「ニコラ・カリニッチ」の名前はなかったが(※第2GKのロヴレ・カリニッチは出場)、もはや彼のことを口にする者は誰もいなくなった。練習における紅白戦ではアシスタントコーチのイヴィツァ・オリッチがカリニッチの代役を難なく務めている。
しかし、一発勝負の決勝トーナメントに入ったのち、もしマンジュキッチに不測の事態が起きれば、身体を張れるセンターフォワードの代役がいないことが懸念の1つだ。それでも今のクロアチア代表ならば、強い絆で結ばれた「家族」としてあらゆる困難を乗り越えていけるだろう。
(文:長束恭行)
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