「前足」の達人
モドリッチは右足のアウトサイドキックを多用する。今どき珍しいタイプだろう。
1970年代あたりまではアウトサイドの名手がたくさんいたが、ボールが軽くなってパススピードが上がり、守備側のプレッシングも強くなったこともあって、アウトサイドキックの使い手は減っていった。アウトサイドの利点はパスのタイミングを敵に読まれにくいことにあるが、それよりも正確で速いパスを届けるほうが重視されるようになったからだ。どのみち受ける味方はマークされているので、敵に読まれるかどうかより速くボールを届けるほうが先決になっていった。
かつてアウトサイドキックは「前足のキック」と呼ばれた。すでに前方にある足で蹴るイメージからだ。アルゼンチン戦のモドリッチも右足を着地する寸前にアウトサイドの面を作って蹴っている。右足を着地させてから左足で蹴っていたら、おそらく寄せてきたペレスにぶつけていたと思う。相手が予想するより一瞬速く蹴り出すにはアウトサイドが最適だったわけだ。
もちろん「前足」といっても予備動作がないわけではない。モドリッチもステップにタメを作って右足を振りだしている。ただし、どのタイミングでどこへ蹴るかはわかりにくい。読みにくいアウトサイドの利点は健在といえる。
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