エムバペがフランス代表で100%を発揮できる理由
直後の68分のゴールは圧巻だった。GKウーゴ・ロリスからカンテへつなぎ、カンテはアントワーヌ・グリーズマンに楔の縦パスを入れる。受けたグリーズマンは左にワンタッチで叩き、受けたマテュイディが前線のスペースへ走るオリビエ・ジルーへ。そしてジルーは一瞬溜めて、右から走り込んでいたエムバペにラストパスを通した。
この時点で勝負あり。驚異の19歳は、極めて冷静に、フランスの勝利を決定づける4点目を流し込んだ。スタジアムの9割を埋めていたアルゼンチンサポーターは沈黙した。
エムバペが恐ろしいのは、19歳とは思えないほどのパワー、スピード、テクニック、メンタリティを備えているだけでなく、1つのピースとして組織の中で輝きを放てることである。そしてフランス代表のディディエ・デシャン監督は、ワールドカップを戦う上で背番号10の若手が最大限に力を発揮できるバランスを見つけ出した。それはグリーズマンをも犠牲にしても、生かしたいほどの力なのである。
まず重要だったのはジルーの存在である。グループリーグ初戦のオーストラリア戦、デシャン監督はムバッペ、グリーズマン、ウスマンヌ・デンベレの3人を前線に配置した。しかし、ゴール方向へのプレーが特徴の3人はプレーエリアが被り、攻撃が停滞してしまった。
すると第2戦のペルー戦でデンベレを外し、ジルーを最前線に配置すると、一気にモヤモヤが解消された。エムバペの今大会初ゴールで勝利するのだが、背番号9のベテランストライカーは得点場面以外にも度々フィニッシュワークに絡んだ。
ジルーはゴールに背を向けた状態でのプレーを得意とし、厳しいマークに遭っていても繊細なポストプレーで周囲の飛び出しを促すことができる。基準点型FWとしてあれだけ正確にプレーできる選手は世界を探しても珍しい。ジルーが1人前線に立っているだけで、エムバペら2列目の選手たちの役割も整理され、やるべきこともはっきりするのである。
そしてもう1つ重要なのは中盤の構成である。守備に専念できるカンテと、攻撃にもダイナミックに絡めるポグバを中央に、そしてハードワークが信条のマテュイディを左に配置してバランスをとることで、グリーズマンやエムバペの守備の負担を軽減し、攻撃に専念させられるのである。