日本の守備に落ち着きをもたらす吉田麻也
加えて大きかったのが、完全復活した川島永嗣と最終ラインを統率する吉田が中心となって、流れの中から完全に相手に崩されなかったこと。もちろん何度かカウンターを繰り出され、レバンドフスキにゴール前へ侵入されるシーンも作られたが、最後の最後で跳ね返すことができた。3試合続けて守備面で落ち着きを見せている吉田の貢献度は非常に高いと言っていい。
これまでの背番号22は、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)の餌食になってPKを献上した昨年11月のブラジル戦に象徴される通り、不用意なミスが少なくなかった。今季のサウサンプトンでもその傾向がしばしば見られた。
だが、今大会に入ってからの彼は紛れもなく「日本の守備の砦」として君臨し続けている。この日初めて出場した槙野がワールドカップ特有の強度に適応し切れなかったり、手を使ったプレーで危険を招いたりする中、吉田が背後にしっかりと陣取って安心感を与えていた。
前述の通り、リスタートからのべドナレクの得点を阻止できなかったことは悔やまれるが、彼自身が絡んだミスではなかった。本人は「(ここまで)毎試合失点しているので、正直あまり満足はできていないですね」と厳しい表情を浮かべたが、ディディエ・ドログバが途中から入ってきただけで慌ててしまった4年前のコートジボワール戦とは別人のように落ち着きと冷静さを示せるようになった。
「後ろが踏ん張れないとダメだと思っているので、自分の責任は大きい」とコロンビア戦直前に語気を強めていたように、それだけの覚悟と誇りが一挙手一投足から垣間見えるのだ。
その真価が問われるのが7月2日の次戦・ベルギー戦だ。チームとして大きなリスクを冒して得たラウンド16の挑戦権を絶対に無駄にするわけにはいかない…。吉田自身もそんな思いは強いはずだ。
「ベルギーの(ロメル・)ルカクとは対戦しているので、いかに危険な選手かを理解している。タフになりますけどチャレンジしたいです。もちろん周りに特徴も伝えていくし、リードしていかなきゃいけないとも思っていますけど、1人じゃ守れないのでグループとして守っていきたい」と彼は今一度、気を引き締める。
昨年11月にブルージュで戦って0-1で敗れた時のベルギーとは全く異なる顔を見せるはず。そこに吉田率いる守備陣がどれだけ勇敢に向かっていけるのか。いずれにしても、苦い敗戦を喫したポーランド戦をしっかりと糧にすることが勝利への第一歩となるはずだ。
(取材・文:元川悦子【ヴォルゴグラード】)
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