経験不足を補う巨大なポテンシャル、W杯で完全開花なるか
ムバッペ自身のスタッツも変化している。1対1ドリブルの成功数ではオーストラリア戦の8/13とペルー戦の9/13で大きな違いはないが、シュート数が前者ではアディショナルタイム含め98分間の出場で1本だったのに対し、ペルー戦では74分までのプレーで2本に増え、2本とも枠内に飛んだ。
前線で体を張る仕事をジルーが全て引き受けることで、ムバッペやグリーズマンが自らの資質を表現しやすい環境を作れるようになったのである。エヴラとともに『itv』に出演したウェールズ代表のライアン・ギグス監督は、ジルーの存在の重要性を次のように語った。
「ジルーはよりゴールに直線的に向かうオプションを与えてくれる。グリーズマンやムバッペが走り込んでボールを受けるタイミングを作ることができる。2人のためにボールをキープしたり、フリックすることができる。私が言いたいのは、ジルーならすぐにチーム全体のバランスを整えられるということさ。我々はチームにどれだけ多くの優れた選手がいるかについて話すが、チームが正しいバランスを保っていなければ意味がない。今日のジルーは良かったよ。特に前半だね」
アーセナルでは出場機会が限定的になってチェルシーへと新天地を求めたジルーだが、彼ほど柔らかいポストプレーやチームに対する献身性、そして得点力を兼ね備えたストライカーは世界を見渡してもほとんどいない。オーストラリア戦でポグバの決勝点を演出したのも彼のポストプレーだった。そんな希少価値の高いチームプレーヤーの存在が、ムバッペのような若い選手の力を引き出し、輝かせていることを忘れてはならない。
2連勝で早々にグループリーグ突破を決め、優勝候補としての確かな実力を示したフランス。だが『itv』のコメンテーターとして試合を分析していた元マンチェスター・ユナイテッドのロイ・キーン氏は、「フランスはもっと調子を上げていくだろうが、彼らには経験が欠けている」と若い選手の多いレ・ブルーに忠告する。
よりレベルの上がるワールドカップの決勝トーナメントでは、若さ故の未熟さをのぞかせることも増えるだろう。エヴラやギグス氏が指摘したように、ムバッペには判断の遅れと身勝手さから味方へのサポートが疎かになりがちな課題もある。
ただ、そういった課題を覆い隠すほどの巨大な才能を秘めていることも確かだ。ムバッペのポテンシャルがワールドカップの中で完全開花すれば、フランスの20年ぶりの戴冠も現実的な目標になる。新たな「10番」が真のワールドクラスへ飛躍する過程を、我々はその目に焼きつけることになるかもしれない。
(文:舩木渉、データ提供:Wyscout)
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