スペインが見せた王者の貫禄
ジエゴ・コスタのゴールが生まれた直後から、試合の雰囲気が一変した。イランは手放しかけた勝ち点1を取り戻すために「6バック」を解除。両サイドバックも盛んに上がる攻撃的なチームに戻った。
一方、スペインはゴールを狙わなくなる。シンプルなパス回しでのらりくらりとイランのプレッシャーをかわし、少しでもリスクがあると見るや最終ライン、GKまでボールを下げる。攻撃のスピードを上げるのは、パス回しで相手を揺さぶった上で、アタッキングサードで確実に前を向いて仕掛けられるシチュエーションができた場合のみ。
スペインは時折軽率なミスからカウンターを浴びたし、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)がオフサイドを見逃さなかったことでゴールが取り消されて救われたこともあった。それでも、その気になれば2点、3点と簡単に奪えそうな雰囲気を漂わせながら、残り時間を優雅に過ごした。
スタジアムにはブブゼラの音が鳴り響き、圧倒的なボールポゼッションで主導権を握ったスペインが貫禄を見せつける…。どこか優勝した8年前の南アフリカワールドカップの試合を見ているような錯覚すらあった。
最近はボールを失ったところから即時奪回してのショートカウンターも武器にしていたスペイン。ところがイラン戦に関しては相手がボールを持った瞬間に大きくクリアして勝手に手放してくれるので、プレッシングをかける必要はなかった。目の前の「6バック」を揺さぶるボールポゼッションに集中すればよかったのも、2010年のチームを見ている錯覚に陥った理由かもしれない。状況に応じたゲームコントロールも「さすが」の一言だ。
大会初戦の2日前にフレン・ロペテギ監督が解任されたことで、状態を危ぶむ声もあったが、今のところその影響は微塵も感じさせない。むしろ全ての交代選手に肩を組んで耳元で指示を伝えるフェルナンド・イエロ監督の存在が、実は意味をなしていないのではないかと思うほどに。
スペインが今大会初勝利を収めたことで、グループBは大混戦となった。最終戦に向けてポルトガルとスペインが勝ち点4で並び、イランが勝ち点3で続く。ラストはポルトガルとイランの直接対決があり、アジアの雄が番狂わせを起こす可能性もある。
スペインにとって朗報なのは、最終戦の相手・モロッコが既にグループリーグ敗退決定済みで「勝ち点3」を計算できること。おそらく元王者相手にひと泡吹かせようと向かってくるだろうが、これまでの2試合と同じモチベーションを保つことは難しい。
開幕直前の監督電撃解任があっても、目指すのは2大会ぶりの優勝に他ならない。イラン戦で自信を再確認した“無敵艦隊”は、我が道を愚直に突き進む。
(文:舩木渉)
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