日本に本田以上の「エクストラキッカー」はいない
ある会議の後、新しい大会公式球を手にしたフランツ・ベッケンバウアーは「ちょっと、あそこへ入れてみようか」と言うと、会議室の隅にあるゴミ箱へポーンとボールを蹴り入れた。出席者から盛大な拍手が贈られたのは言うまでもない。スーツと革靴での高精度キックといえば、かつてJリーグの試合でベンチから飛び出すなりボレーのロングシュートを決めたドラガン・ストイコビッチは忘れがたい。
2つのエピソードには、現役を退いても錆び付かない技術、一発で成功させる特別なオーラを感じさせる。
サッカーで決定的なプレーをする選手は、「エクストラキッカー」とも呼ばれる。特別なプレーヤーは南米では「クラッキ」、イタリアなら「ファンタジスタ」。エクストラキッカーがエクストラドリブラーでもエクストラランナーでもないのは、サッカーで何らかの成果をもたらすのはキックだからだろう。
ヘディングを除けば攻撃はキックで終わる。そこまでの過程がどんなに素晴らしくても、結果を出すのはキックだ。決定的なパス、クロスボール、FK、ミドルシュート…すべてはキックで決まる。ドリブルで3人抜いても最後のシュートが外れる選手はエクストラキッカーとは呼ばれない。
本田圭佑の武器は左足のキックだ。ボールコントロールもドリブルも上手いが、本田が特別なのはキックに精度とパワーがあるから。この点で日本に本田以上のエクストラキッカーはいない。本田より速い、上手い、賢い選手はいても、結果を叩き出せる可能性において本田の左足は最も期待値が高い。