かつて、イングランド代表は〈GKファクトリー〉
賢明な読者の皆さんは、イングランド代表GKが犯した恥ずかしいミスを、酒の席で必ず笑いのネタになるような失態を、いくつ覚えていらっしゃるだろうか。
デイビッド・シーマンはジャンプのタイミングを誤り、FKから失点を許した。壁に当たってディフレクトしたとはいえ、あまりにも緩慢な動きに国中が頭を抱えた。またデイビッド・ジェームズが真正面に飛んできたシュートをファンブルしたり、スコット・カーソンはシュートの軌道を見誤ったりしたこともあった。そうそう、ポール・ロビンソンはバックパスを見事に空振りしたなあ。いやはやイングランド代表GKは〈珍プレーの宝庫〉さながらだ。ロバート・グリーンも決して強くないシュートをトンネルして後ろ指を指され、ジョー・ハートはシュートをパンチできずに失点……。レベルが低い、低すぎる。
かつて、イングランド代表は〈GKファクトリー〉と呼ばれていた。1960年代からゴードン・バンクス、ピーター・シルトン、レイ・クレメンスと世界が認める名手を輩出し、彼らが守るゴールはまさに鉄壁で、まさに守護神。なぜか日本ではGKを総じて守護神と表現するが、フィードを相手に渡しても笑っているような男は、異なる呼称が望ましい。例えば疫病神とか……。
さて、イングランド代表GKの低迷は、バンクス、シルトン、クレメンスの時代が40年近く続いたことだ。フィールドプレーヤーと異なりGKは選手寿命が長く、なかでもシルトンは40歳までイングランド代表でもプレーしていた。歴代の監督も気を遣い、「お疲れ様。そろそろ後進に道をゆずって」とは言いづらかったに違いない。
いや、最も反省すべきは、育成年代からの指導法だ。ヨーロッパ諸国よりも専門コーチの登用が遅れ、元選手の、しかも年老いた者の個別指導では、レベルが上がるはずがない。その昔はシュートストップとハイクロスの対応に明け暮れるクラブも少なくはなく、バックパスの処理やビルドアップの上達につながるような指導は皆無だったのだから、近代的なGKが生まれるはずはない。