物騒な街に似つかわしくない酒井の佇まい
フランスのメディアが“リーグ・アンのイケメン”的な特集を組んだとき、酒井はイケメンの中に選出されていた。1998年ワールドカップのときは川口能活がアップで映るたびにテレビのコメンテーターが「美男子!」を連発していたフランスは、けっこう守備範囲が広いのだ。
マルセイユとはどんな街か。タクシーのドライバーに聞いたら、「マフィアの街」と即答だった。映画「フレンチ・コネクション」の舞台にもなっている。ジーン・ハックマンとロイ・シャイダーが麻薬捜査官に扮した傑作は実在の事件を元にしているという。
マルセイユは「サッカーの首都」を自認していて、ファンは熱狂的というか、よく暴走することで知られている。メディアが集中しているパリはメディアのプレッシャーが強いが、マルセイユは不甲斐ないプレーをした選手の車が破壊されるなど実力行使による直接的なプレッシャーが凄いといわれている。
そんなちょっと物騒な街に酒井宏樹は全く似合わない。しかし、逆に物静かで品が良く、真面目にしっかり働く日本人に、一種のあこがれを抱く人々も多い。エゴを通すのではなく、自然体で存在感を示す。そうした佇まいに東洋の神秘を感じるのかもしれない。
(文:西部謙司)
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