理想とは異なる現実。本田に求められることとは?
思い起こすこと8年前の同時期。日本はオーストリア・グラーツでイングランド代表に挑もうとしていた。スイス・ザースフェーでの選手ミーティングで超守備的戦術を採る方向に傾いた直後のテストマッチ。新スタイルが機能するか否かを試す重要な場だった。
結果的には1-2で苦杯を舐めたが、長友佑都がセオ・ウォルコットを完封するなど奮闘を見せ、南アフリカワールドカップでの戦い方が完全に定まった。今回のスイス戦も西野ジャパンの方向性を左右する大きな試金石になるのは間違いない。本田が「ワーストケース」と言う南ア方式を選択する結果になる可能性もゼロではないだけに、その動向が注目されるのだ。
「あの時は『全員守備でもういく』と。『攻撃の議論はもうなしにしよう』と。それは最終パターンとしてあると思ってます。でもその議論にいくか、いかないのトライを今はしてるし、いろんなパターンで相手の最終ラインを破る議論をしてる。2010年はそんな議論はほぼなかった。行き当たりばったりみたいな『もうやるしかない』という感じがあの時だったから、全然違うと思います」と31歳のベテランアタッカーはあくまで攻撃的に行きたいというこだわりを捨ててはいない。
4年前の2014年ブラジルワールドカップほど壮大な理想は追えないものの、ベタ引きだけはしたくない…。そんな思いが脳裏に焼き付いて離れないのだろう。
自身がスターダムにのし上がった8年前は日本も自分も右肩上がりの軌跡を描いていくと信じて疑わなかったはずだが、現実は違った方向に進んでしまっている。
長い長い紆余曲折の結果、再びトップ下という重責を担う本田に課せられるのは、エースに君臨することでもなければ、自分が目立つことでもない。日本を勝たせる仕事をすること。それに尽きる。そのためには、理想からかけ離れていようが、不格好だろうがどうでもいい。泥臭く守りに徹することも必要ではないか。
ロシアワールドカップに挑む日本が、そういう戦いを選択するべきかどうかの判断を下すのが、今回のスイス戦だ。トップ下に回帰した本田の一挙手一投足、そして4バックに戻った日本のチームの完成度、そして強豪相手にタフな戦いができるかが焦点となる。
(取材・文:元川悦子【ゼーフェルト】)
【了】