見逃せない時代の変化。西野流3バックは完成するのか
この頃までの代表は国内組が大半を占め、合宿を頻繁に行って守備の約束事を十分に植えつける時間的余裕があった。だからこそ、指揮を執る側も臨機応変なフォーメーションの変更に踏み切れたのだろう。その状況がガラリと変わったのが2010年以降。海外組の比率が急速に高まったことで、代表の活動期間が著しく減り、戦術的バリエーションを広げるのが難しくなった。
それを如実に感じさせたのが、アルベルト・ザッケローニ監督時代の4年間だ。イタリア人指揮官は日本人が慣れ親しんでいる4バックをベースにしながらも、何度か3バックにトライした。3-4-3を完成形に持っていこうという思惑を抱いていた。
だが、2013年のコンフェデレーションズカップ・メキシコ戦(ベロオリゾンテ)で本田と香川真司(ドルトムント)を2シャドーに据えた3-4-3を短時間試みたのを最後に「日本代表の3バックを機能させるレベルに引き上げるのは難しい」と断念するに至った。
これを境に3バックに挑む動きは途絶え、5年の月日が経過。ロシアワールドカップまで3週間という今になって、西野新監督は3バックと4バック併用という大胆なチャレンジに踏み切った。ザッケローニ監督の3バックは「後ろが4人以内」など細かい約束事があったが、そういう規律を作っている時間はない。とにかくベーシックなところだけを抑えておいて、あとは選手たちの判断力とコミュニケーションに委ねるしか、解決策はなさそうだ。
「現実的に5バックになってしまった時は守備ブロックを敷く位置ににもよる。ゴール前で人数をかけて守るよりも、もう1つか2つ高い位置でブロックを敷くことも1つの変化になる。ラインの上げ下げは長谷部さんがすると思うので、べた引きにならないようにしたいですね」と槙野が言えば、酒井高徳(ハンブルガーSV)も「前に出ていく勇気のある守備をチャレンジしたいと、このフォーメーションに限っては思います」も前向きな姿勢でプレーすることの重要性を口にした。
そういう共通意識をチーム全体が強く持ち、臨機応変な対応ができれば、光明は見えてくる。臨機応変さというのは日本人に最も苦手な部分ではあるが、締めつけ型のハリルホジッチ前監督から自由度の高い西野新監督に変わった以上、選手たちが自ら判断して行動しなければいけない度合いは増した。
「世界で戦うには強いパーソナリティが必要」という長友の言葉をチーム全体が脳裏に刻んで、まずは3バック習得に全力を注ぐ。
(取材・文:元川悦子)
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