万能のプレーメーカー
十代のモドリッチは典型的な10番タイプだった。しかし、二度の貸し出しを経てハードワーカーとしての資質も身につけていく。身長174センチと長身のクロアチア人の間では小柄で細身だったが、運動量もあり守備も上手かった。クロアチア代表でもいわば特権階級的な扱いだったクラニチャールと違い、モドリッチは生き残るためにモダンなMFに成長していく。守備的MFもやればサイドハーフもこなし、攻守万能のプレーヤーになっていった。スパーズを最後にクラニチャールは表舞台から消えていく一方、モドリッチはレアル・マドリーの10番として君臨している。時代の流れに適応する能力が2人の差につながったように思える。
容姿とプレーの雰囲気がヨハン・クライフによく似ている。右足のアウトサイドの使い方やフィールド全体を俯瞰するゲームメーク、柔らかだがキレのある動き、何となく悲しそうな顔つきも。クライフはモドリッチほど苦労人ではないけれども、時代の要請に適応したことがスーパースターへの道を拓いたのは共通点だろう。
レアル・マドリーでも最初からレギュラー扱いというわけではなかったが、あるときは中盤のコンダクターとして、あるときはハードワーカーとして貢献し、いつしか不可欠の存在になった。リバプールの監督などを務めたジェラール・ウリエは「周囲の選手を上手くプレーさせる」とモドリッチへ最大級の賛辞を贈る。技術と知性に優れ、攻守に働くハードワーカーとして、やはり同じような境地にたどり着いたトニ・クロースとともにレアルを牽引する。
興味深いのは、クロアチア代表におけるモドリッチは4-2-3-1のトップ下として、10番の役割を任されていることだ。クロアチアのMFにはイヴァン・ラキティッチ、マテオ・コバチッチという10番タイプのチームメートがいる。ところが、この3人ともキャリアの過程でハードワークを覚え、今ではラキティッチとコバチッチが脇役として機能するのでモドリッチがより攻撃力を発揮できる役割に収まっているのだ。
旧ユーゴスラビアは天才的なボールプレーヤーの宝庫だ。ドラガン・ストイコビッチやサフェト・スシッチ、ズボニミール・ボバン、ロベルト・プロシネツキらの系譜は現在にも引き継がれている。だが、現在のクロアチアを支えているのは直系ともいえるクラニチャールではなく、モドリッチを筆頭とするハイブリッドMFたちなのだ。
(文:西部謙司)
【了】