今、岡崎慎司に必要なこと
心肺機能の数値が右肩上がりで上昇し、高地合宿が終わった段階で「スーバーボディを手に入れたみたいに体が軽くて走れた」と本人も述懐する。足の負傷も完全に癒え、もともと中村の定位置だった右サイドを担ったのは松井だった。そしてカメルーン戦での先制点のお膳立てという名場面も演出してみせたのだ。
その一部始終を当時24歳だった岡崎もつぶさに見ていたはずだ。実際、彼自身も中村同様、レギュラーの座から転げ落ちるという苦い経験をしている。ゴールが決まらなくなって焦りが募り、高地合宿での数値が芳しくなかったのも災いし、本田に1トップの座を奪われたのは、今も悔しい思い出だ。
「それでも南アフリカの時は途中から結構、うまくやれて、3戦目のデンマーク戦(ルステンブルク)で点を取ることもできました。直前合宿から全ていいから本番もいいっていう美談もあれば、この時期やってないことが逆に本番に奏功する可能性もある。それはどっちとも言えない。だからこそ、今の自分は『最後に自分を出し切る』『試合で絶対にやってやるんだ』という強い自信と意思が必要。切れずにやり続けていくことが一番かなと思いますね」と岡崎は神妙な面持ちで語っていた。その言葉の裏側には、8年前の記憶が少なからず影響しているはずだ。
6月19日のロシアワールドカップ初戦・コロンビア戦(サランスク)までは3週間ある。もちろん今回の西野ジャパンは最終メンバー23人の絞り込みが終わっていないだけに、岡崎が復帰を急ぐ気持ちも理解できるが、大事なのは本番だ。32歳になったベテランFWは中村俊輔と松井大輔という2人の先輩が辿った道を今こそ、思い出すべきだろう。
「この1ヶ月やってなかったとしても、確実にやれる自信はあるので、そこへの持っていき方がすごく重要かと思います」と本人も言うだけに、とにかく今はあまり物事を深く考えず、「鈍感力」を鍛えることだ。ワールドカップという大会は頭をクリアにした者勝ちといった部分も少なくない。国際Aマッチ111試合出場というキャリアを誇る岡崎でも、原点に立ち返って自分と向き合わなければならないのである。
(取材・文:元川悦子)
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