裁判で明らかになる解任の真相
ハリルホジッチ氏が一貫して求めているのは「解任理由の説明」だ。説明に納得していないのではなく、そもそも説明がなく、説明がなければおかしいというのがハリルホジッチ氏の主張だ。一方で、JFAは説明する必要がないと考えており、食い違いが見られる。
また、ハリルホジッチ氏側は手続き上の問題を指摘している。今回の解任は田嶋会長が専権事項として決断し、理事会の承認を得ていない。JFAは法的な問題はないとしているが、ハリルホジッチ氏の弁護士によれば「一般社団・財団法人法によれば手続き上、理事会の承認を得る必要がある。またJFAの定款にも重要な案件は理事会の承認が必要と書かれている」だという。
これは解任理由の説明を求めるための手段である。裁判でこの手続きに問題があるとなれば、「なぜ理事会の承認なしに決断したのか」「解任のプロセスはどのようなものなのか」などが明らかになる。そこから解任理由が浮かび上がる可能性は高い。
JFAが頑なに説明を拒む理由は何か。たとえ表に出せない事情であっても、ハリルホジッチ氏にだけ内密に伝えることもできたはずだ。私のこれまでの取材ではスポンサーからの圧力ではない。電通関係者は「そんなことあるはずない」と一蹴する。では真相はどこにあるのか。未だ深い闇の中にある。
ハリルホジッチ氏は今回の裁判で金銭は一切求めない。選手の邪魔をするつもりもない。裁判は8月以降となる見通しで、ロシアワールドカップ終了後だ。
彼が最も憤っているのは「誠実な対応」がなかったことだ。自身が経験したようにサッカー界では突然の解任はよくあること。そこへの理解はある。ただし、そうなっても誠意を持って向き合ってほしいというのがハリルホジッチ氏の本心ではないか。
思えば、ハリルホジッチ氏は選手選考すべてに理由があり、フェアな基準を持っていた。確執が噂された本田圭佑も再招集しており、ワールドカップメンバーに選ぶ可能性も高かったと私は見ている。
裁判となって後の祭りかもしれないが、JFAにはフェアプレーを求めたい。このままでは単に後味が悪いでは済まされない。
(取材・文:植田路生)
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